日本地球惑星科学連合2024年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 G (教育・アウトリーチ) » 教育・アウトリーチ

[G-04] 小・中・高等学校,大学の地球惑星科学教育

2024年5月26日(日) 09:00 〜 10:15 103 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:畠山 正恒(聖光学院中学高等学校)、丹羽 淑博(国立極地研究所)、座長:畠山 正恒(聖光学院中学高等学校)、丹羽 淑博(国立極地研究所)

09:30 〜 09:45

[G04-03] 校内の露頭を用いた地球分野の学習プログラムの構築-長崎日本大学中学校での実施例-

*大野 希一1西浦 彰洋2井上 大空2 (1.鳥海山・飛島ジオパーク推進協議会、2.長崎日本大学中学校)

キーワード:地学教育、砂岩泥岩互層、長崎日本大学中学校

1.はじめに
 理科の地球分野の学習において、露頭観察はぜひとも実施したい活動の一つである。特に、地層が持つ堆積構造の観察や手触り等の質感の体感は露頭観察によってのみ得られる情報であり、地球やその地域の地史を考察するうえで重要である。通常、学校の授業等で露頭観察を行う場合、大型バスなどで露頭に出向くことが多いが、移動時間や経費の発生、さらには現地での生徒の安全管理が必要となる。これに対し、学校から近く、かつ生徒にも身近な場所で露頭観察が実施できれば、前述の課題の解決に加えて、普段見ている景観の成り立ちに関する生徒の理解が進み、地球や地域への理解を深めることができる。長崎県諫早市にある長崎日本大学中学校・高等学校は、新生代古第三紀始新世(約4000万年前)に浅海もしくは汽水域に堆積した砂岩泥岩互層(諫早層群;山崎・他、1965等)の露頭が校内に複数存在し、地球分野のよい学習素材として活用できる。本発表では、校内に存在するこれらの露頭を活用した地球分野の学習プログラムの開発と、その実施例を紹介する。

2.本プログラムの構成と特徴
 本プログラムの実施には終日を要する。その流れは以下の通りである;

  1~2校時目:地球の成因とプレートテクトニクスに関する講話
  3校時目:校内の3か所で露頭観察
  4校時目:産総研のウェブサイト「地質図Navi」を用いて、観察した地層の特徴や年代を調べる
  5校時目:砂岩泥岩互層の成因の考察と、地層の観察結果から導かれる学校周辺の地史の紹介
  6校時目:まとめと質疑応答

本プログラムは、5校時目に砂岩泥岩互層の成因を考察させる点を特徴とする。生徒は小学校5年生の理科の授業で「泥は砂に比べて陸から離れた場所に堆積する」ことを学習するが、これでは砂と泥は同じ場所には堆積できないことになる。しかし実際には、砂岩と泥岩は同じ場所に露出している。この事実をどう説明するかを生徒に考えさせるのが、本プログラムの”見せ場”である。

3.実施例
 本プログラムを、長崎日本大学中学校の1年生121人に提供した。このプログラムを効率的に実施するために、当日はGoogle Slidesで作成した専用のワークシートを生徒に配付した。また、3校時目の冒頭で、砂岩と泥岩の破片を生徒に配付し、その手触りや組織の違いを認識させるとともに、堆積岩の層理面の様子に着目するよう伝え、露頭観察のポイントを明確に生徒に提示した。その後、生徒たちは校内3か所の露頭を観察し、砂岩泥岩互層と、それを断ち切る断層の存在を確認した。これらの観察結果を踏まえた上で、5校時目に、生徒に「本来同じ場所にたまることができない砂と泥を同じ場所にためるにはどうすればいい?」発問したところ、複数の生徒が「気候変動に伴う海水準の変化が同じ場所に砂と泥を交互に堆積させたのではないか」という仮説を発表した。これに対し、宮崎県の日南海岸にある“鬼の洗濯岩”の露頭写真を紹介しながら、「これだけおびただしい数の砂岩泥岩互層を、変化に時間がかかる気候変動のみでつくり出せるだろうか?」と問いかけるとともに、砂岩層と泥岩層の境界がシャープであることに注目させ、泥が堆積する場が急に砂が堆積する場に変化したのでは、というヒントを提示した。そしてこのヒントをきっかけに、混濁流の存在と、その混濁流が発生する原因(集中豪雨や大地震)を生徒から導き出させた。最後は、露頭で生徒たちが観察した結果を全て説明した、長崎日本大学中学校周辺の地形地質発達史を紹介した。

4.結果と課題
 プログラムの実施後に生徒が記述した感想文を解析し、教育効果を検証した。受講生の半分強にあたる67人の生徒の感想文を解析したところ、「通学路沿いに見られる崖が地層だったことや、それが約4000万年かけてできた事に驚いた」「地層は意外と身近な所にあることが分かった」という、学校周辺の地質に興味を持ったという記述が53件、地球や地学、そして理科に興味を持ったという趣旨の記述が52件みられた。これを見る限り、地域や地球への理解を促すことを意図した本プログラムの目的の一部は達成されたと考えられる。
 一方で、講義で大陸移動説とプレートテクトニクスを紹介したが、中学1年生には内容がやや難しかったこと、露頭の前で「どれが地層かわかりません」と立ち尽くす生徒が続出したこと、露頭では生徒がなかなか見て欲しい場所を観察してくれなかった、という事態が生じた。講義内容の改善に加え、露頭での着眼点をより具体的に生徒に提示する必要がある。なお、今回生徒たちが観察した諫早層群は、有明海をはさんだ東側では大牟田層群に対比され、そこには日本の近代化を支えた三池炭田の石炭層が挟在される(星住・他、2004)。これは、普段目にする地層と同じ時代にできた地層が、日本や世界の産業に与えたインパクトを紹介したり、再生可能エネルギーの話題を提供するきっかけとなる。今後は地球分野だけでなく、社会科を含む他教科の学習にも貢献するようなプログラムの構築を検討したい。