日本地球惑星科学連合2024年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 G (教育・アウトリーチ) » 教育・アウトリーチ

[G-04] 小・中・高等学校,大学の地球惑星科学教育

2024年5月26日(日) 17:15 〜 18:45 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 6ホール)

コンビーナ:畠山 正恒(聖光学院中学高等学校)、丹羽 淑博(国立極地研究所)

17:15 〜 18:45

[G04-P03] 3Dプリンターを活用した海底地形と陸上地形の連続性を考える教材の開発

*佐藤 諒弥1野崎 篤2千葉 達朗4横山 光3 (1.慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス環境情報学部、2.平塚市博物館、3.北翔大学、4.アジア航測株式会社)

キーワード:防災教育、3Dプリント、地形モデル、教育、地震火山地質こどもサマースクール、教材

第22回地震火山地質こどもサマースクール(以下サマスク)は,「大正関東地震100年」をテーマに2023年8月17日18日,神奈川県平塚市周辺で開催した.サブタイトルは,「湘南の海の恵みと地震のひみつ」であった.今回開発した3Dの地形模型教材は,サマスクの実験教材として開発したものである.サマスクは,フィールドでの観察や実験,講義,話し合い活動を通して子ども達が,大地の謎を解きあかし,発表を行う体験探究型のワークショップである.
第22回サマスクでは,以下の2つの謎を提示した.
①湘南の大地と海は,地震とかかわり,どうやってできた?
②百年後の未来の湘南でどう遊び,どう暮らす?
本教材は,これらの謎の主に①を解き明かすための思考ツールとして開発した.
謎の探究のためには,サマスクのテーマである大正関東地震が,震源域に相模湾を含んでいることに気づくことが重要なポイントである.地球の営みである地震などの大地の活動は,陸上と海底に連続的に続くものであり,大地の動きが相模湾の地形と深く関係していることが謎解きのカギになる.そこで,海と陸のつながりを観察するために,神奈川県大磯町照ケ埼海岸の段丘面の観察や,平塚市の泡垂山山頂からの景色を観察ポイントとし,陸から海にかけての景色について考えるきっかけとした.しかしながら,目の前に広がる相模湾には海水があり,海岸線から広がる海下の海底地形をイメージすることはできないので,地形を海中まで連続的にイメージすることは難しい.そこで,実際に観察した景色の海の水を抜いたら,海底地形が現れる模型教材が開発できれば海底地形を直接的にイメージしやすいのではないかというアイデアが提案された.実験教材として,手を動かしながら触れて五感で体験できる教材としては,3D地形模型が適している.そこで,海底地形と地上地形を合わせた3Dモデルを3Dプリンターで出力し教材化することができないか検討することになった.
3Dプリンターで,立体造形を出力するためには,STLデータというデジタルデータがプリントアウトに必要である.
以下にデジタルファブリケーションの作業を紹介する.
海底地形と陸上地形を合成するにあたり,海底地形のデータは,日本水路協会のm7000シリーズのデータを活用した.350mメッシュデータを北緯34.87-35.47 東経138.94-139.74のデータを使用した.STLデータは,メルカトル図法350mメッシュ高さ方向5倍とした.データの作成方法としては,3次元のメッシュデータを面を持った3Dデータに変換し,さらに立体造形として出力するためのデータ(ソリッドデータ)に変換する必要があった.まず面データをポリゴン分割しCADソフト(fusion360)に流し込む形式のデータにした.このデータに変換すると,地形データは膨大な量の三角形の集合体となるため,一般のPCでは扱いづらいサイズのデータとなってしまった.そのため,ポリゴン分割したデータを少しずつ縮小してはポリゴンの再分割を繰り返し,縮尺を調整していった.最終的にデータは家庭用3Dプリンターで印刷できるサイズである,約1/52690倍となった.模型の印刷時間は30時間以上かかり,家庭用3Dプリンター(XYZダヴィンチ 1.0 Pro)では量産に適していなかった.当日の実験では,参加者6班分の教材が必要だったためPLAの素材の3Dモデルをもとに,かたとーる(型取り剤)で型をとり,石膏を流し込んでモデルを複製し対応した.
実験は以下のような方法で行った.
①青い不透明の色水が入ったバットに地形模型を沈める.
②海面レベルに色水を調整した状態で,子ども達に配布
③水面から出ている部分の地形模型を観察し,実際に観察した地形と対比させる.
④スポイトで水を抜き海底地形が現れる様子を観察してする.
実験では,スポイトで色水を吸い出し,海底地形が現れるにつれて参加者から感嘆の声が上がった.地形を観察するために登った湘南平山頂からの景色と海底地形との連続性が観察できたことで,海底の溝と山の凸凹に関係があると考察するきっかけができた.
その結果,相模湾の複雑な地形が相模湾の豊かな水産資源を育んでいることについて考察する様子も見られた.
 この教材は,地形は目視できる地上の地形だけでなく海底地形との連続性を実験を通じて印象づけるために有効な教材であることがわかった.また,地理院地図と海底地形のデータを統合し,手軽にデータ化することができれば,海域に囲まれた日本では,各地域での活用も期待される.今回は,地形の連続性という視点で教材を活用したが,高さ方向の縮尺の設定によっては,高潮や津波災害の可視化にも活用できるのではないかと考える.
また,今回出力した模型の縮尺が当初想定したいたものよりも小さくなってしまった.デジタルデータをファブリケーションするための手法の研究も課題として残った.