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[HCG20-01] 水圧変化に応答する小規模断層の弾性的な剪断変位量を示す地質学的証拠:幌延の地下研究施設の例
キーワード:断層、剪断剛性、水圧変化
地層処分事業においては、深度 300 m以深に高レベル放射性廃棄物を人工バリア(金属製の容器とその周りの粘土材料)とともに埋設することが計画されている。そのためには、埋設後の人工バリアに影響を及ぼすような物理化学的現象の評価が必要である。小規模断層が存在する岩盤に廃棄体を埋設する場合は、埋設後のそれらの断層による剪断変位の可能性を検討することが人工バリアの性能を担保する上で重要となる。剪断変位には弾性的な剪断変位と非弾性的な剪断変位(永久ひずみ)が想定されるが、本発表では弾性的な剪断変位に着目する。例えば、堆積軟岩中の小規模断層を対象とした既往の段階注水試験において、断層の剪断剛性が非常に低い場合があり、断層内の水圧増加に伴って数cmの弾性的な剪断変位が発生することが確認されている(Ishii, 2020, 2024)。このような結果は、堆積軟岩では、廃棄体埋設後の水圧の回復にともなって廃棄体周辺の小規模断層沿いに弾性的な剪断変位が発生する可能性を示唆する。したがって、小規模断層が存在する岩盤に廃棄体を埋設する場合はそれらの断層の剪断剛性や既存の弾性的な剪断変位量の定量的な把握が求められる。本研究は、そのような手法の整備を目的として、幌延の地下研究施設の珪質泥岩(稚内層)において断層を対象に行われたグラウト注入とその後のボーリングコア・BTV観察の結果を解析し、同断層の既存の弾性的な剪断変位を調べた。
地下研究施設の深度380mの立坑底盤から掘削した直径66 mmの鉛直孔の深度約480 mに出現した断層を対象にグラウト注入を実施し、図(アップロード図a, b参照)に示すような特徴的な産状を示すボーリングコアを採取することができた。コア観察とBTV観察の結果、もともと正断層として存在していた断層がバックスリップしたことが推定された。すなわち,立坑底盤からのボーリング掘削に伴って断層内の水圧が大きく低下し、断層面にかかる有効垂直応力が増加した。これにより断層の剪断剛性が増加し、弾性的な剪断変位の一部がバックスリップという形で解放されることで(Ishii, 2024)、当該断層面の下盤側と上盤側のボーリング孔の位置がずれた。ボーリング掘削に引き続くグラウト注入中も、注入による若干の水圧上昇はあるものの、断層内の水圧が掘削前より低い状態に維持されているため、バックスリップが発生したままの状態でグラウトが固化し、上記のボーリングコアが取得されたと考えられる(アップロード図c参照)。断層面の下盤側と上盤側のボーリング孔の水平方向のずれは約 2 cmであり、断層面の実変位量は数cmと推定される(現在、詳細な変位量を解析中)。すなわち、グラウト注入のためのボーリング孔掘削前に数cm以上の正断層センスの弾性的な剪断変位が断層沿いに発生していたが、そのうちの数cmの剪断変位がボーリング掘削およびグラウト注入の過程における水圧低下により解放されたと考えられる。
今回の検討では、数cmの弾性的な剪断変位が水圧低下に伴って断層沿いに発生したことを確認した。同断層は、水圧が元の状態まで回復(増加)すると再び同程度の弾性的な剪断変位が起きることが想定される。今回得られた観察結果は、断層の剪断剛性や既存の弾性的な剪断変位量を地上からの調査段階から定量的に推定するための手法整備に資するものである。
地下研究施設の深度380mの立坑底盤から掘削した直径66 mmの鉛直孔の深度約480 mに出現した断層を対象にグラウト注入を実施し、図(アップロード図a, b参照)に示すような特徴的な産状を示すボーリングコアを採取することができた。コア観察とBTV観察の結果、もともと正断層として存在していた断層がバックスリップしたことが推定された。すなわち,立坑底盤からのボーリング掘削に伴って断層内の水圧が大きく低下し、断層面にかかる有効垂直応力が増加した。これにより断層の剪断剛性が増加し、弾性的な剪断変位の一部がバックスリップという形で解放されることで(Ishii, 2024)、当該断層面の下盤側と上盤側のボーリング孔の位置がずれた。ボーリング掘削に引き続くグラウト注入中も、注入による若干の水圧上昇はあるものの、断層内の水圧が掘削前より低い状態に維持されているため、バックスリップが発生したままの状態でグラウトが固化し、上記のボーリングコアが取得されたと考えられる(アップロード図c参照)。断層面の下盤側と上盤側のボーリング孔の水平方向のずれは約 2 cmであり、断層面の実変位量は数cmと推定される(現在、詳細な変位量を解析中)。すなわち、グラウト注入のためのボーリング孔掘削前に数cm以上の正断層センスの弾性的な剪断変位が断層沿いに発生していたが、そのうちの数cmの剪断変位がボーリング掘削およびグラウト注入の過程における水圧低下により解放されたと考えられる。
今回の検討では、数cmの弾性的な剪断変位が水圧低下に伴って断層沿いに発生したことを確認した。同断層は、水圧が元の状態まで回復(増加)すると再び同程度の弾性的な剪断変位が起きることが想定される。今回得られた観察結果は、断層の剪断剛性や既存の弾性的な剪断変位量を地上からの調査段階から定量的に推定するための手法整備に資するものである。