17:15 〜 18:45
[HCG23-P02] タービダイトを用いた古地震研究 - 室戸岬東方沖陸棚斜面下の例
キーワード:タービダイト、南海トラフ、地すべり、南海トラフ巨大地震
タービダイトを用いた古地震研究では,堆積物が地震に伴うものかどうかの評価や震源の位置の推定のため多地点の試料の比較が必要である.南海トラフ海域の場合は,沈み込み帯陸側斜面に分布する,海底谷とつながらない孤立した堆積盆が洪水の影響を考慮する必要がないため研究に適している(池原,2001, 地学雑誌).しかし,起伏の少ない地形的特徴から海底ケーブルが敷設されることが多く,採泥が制限される地点が急激に増えている.そのため,南海トラフの地震履歴研究を進めるうえでは,陸からの堆積物供給のある地点も含めた研究が必要である.一方で,陸棚斜面から離れた堆積盆では最終氷期以降にタービダイトの挟在が非常に少なく(Omura et al., 2012, Sediment. Geol.),タービダイトを用いた地震イベントの研究が行えない.このため,河川からの堆積物供給の影響が少なく,陸棚斜面に近い地点でのタービダイト研究が必要である.本発表は室戸岬東方沖の陸棚斜面下の近接する3地点のタービダイトを用いた古地震研究を報告する.
室戸岬の東方には陸棚が東北東-西南西方向に連続する.それに並行する海岸には大きな河川は存在せず,海底谷は室戸岬の近傍に野根海底谷が分布するのみである.本研究では室戸岬の北東沖約30 kmの3つの地点の柱状試料(「白鳳丸」KH-17-2次航海のPC11および「新青丸」KS-22-3 次航海PC02,PC03)を用いた.PC11とPC03の採泥点は陸棚斜面の麓に位置し,両地点への堆積物の供給経路は高まりで隔てられ,小規模な斜面崩壊では同時に両地点への堆積物供給は起こりにくい.PC02採泥点は斜面麓のPC11から約4 km沖側に位置し,陸棚斜面からの距離による堆積変化を捉えることを目的とした.分析は,X線CTスキャン撮影と蛍光X線コアロガーを用いた元素濃度分析を行った.堆積年代については,東京大学大気海洋研究所のシングルステージ型加速器質量分析計を用いて,浮遊性有孔虫と全有機炭素の放射性炭素年代を求めた.すべてのコア試料は火山灰層で止まっており,PC02とPC03は堆積過程での軽微なコンタミネーションがあるものの,火山ガラスの形態・屈折率等からいずれもK-Ahテフラと同定された( (株)京都フィッショントラックによる).
タービダイト層の認定は全体に泥質で肉眼では容易でないためX線CT画像と蛍光X線コアロガーの元素濃度をもとに推定した.タービダイト層の数は,陸棚斜面から離れたPC02で最も少なく,これは乱泥流の到達が少なかったか,あるいは細粒なタービダイトが認定から漏れているためと考えられる.コア間のタービダイトの対比は,X線CT値と帯磁率の変動パターンから概ね行えたが,放射性炭素年代を用いたAge-depthモデルを用いることでPC02とPC03のほぼ全てのタービダイト層をPC11と対比することができた.3地点のコアの堆積速度に注目すると,約2千年前以降ではPC11が最も速く,約4千年前以前では陸棚斜面基部から遠いPC02がPC11より早くなっている.野根海底谷から続くチャネルは現在,PC02地点の南2 kmに位置しているが,かつて流路が近接していたか,堆積物供給が現在より多かった可能性がある.ただし,PC02のタービダイト層の数は全ての層準でPC11より少ないため,海底谷を通した堆積イベントの頻度に変化があった訳ではないと言える.
本地点の55 km南方の土佐バエ海盆は,陸から続く斜面や海底谷とは繋がっておらず洪水の影響を受けない.そのためタービダイトは地震性と解釈でき,南海トラフにおけるプレート境界地震の発生間隔とも矛盾しない約215年という値が報告されている(岩井ほか,2004,地質学論集).本研究のPC11地点におけるタービダイト層の堆積間隔は約197年と見積もられ,土佐バエの値と大きな差はない.本調査地点は陸棚斜面基部にあり,洪水の影響も排除できない地点ではあるが,地震イベント推定に有効な情報の提供が可能と考える.
本研究は原子力施設等防災対策等委託費(海域の古地震履歴評価手法に関する検討)事業の受託研究の一部として実施された.X線CTスキャン撮影と蛍光X線コアロガー分析は高知大学海洋コア国際研究所の共同利用により行った.
室戸岬の東方には陸棚が東北東-西南西方向に連続する.それに並行する海岸には大きな河川は存在せず,海底谷は室戸岬の近傍に野根海底谷が分布するのみである.本研究では室戸岬の北東沖約30 kmの3つの地点の柱状試料(「白鳳丸」KH-17-2次航海のPC11および「新青丸」KS-22-3 次航海PC02,PC03)を用いた.PC11とPC03の採泥点は陸棚斜面の麓に位置し,両地点への堆積物の供給経路は高まりで隔てられ,小規模な斜面崩壊では同時に両地点への堆積物供給は起こりにくい.PC02採泥点は斜面麓のPC11から約4 km沖側に位置し,陸棚斜面からの距離による堆積変化を捉えることを目的とした.分析は,X線CTスキャン撮影と蛍光X線コアロガーを用いた元素濃度分析を行った.堆積年代については,東京大学大気海洋研究所のシングルステージ型加速器質量分析計を用いて,浮遊性有孔虫と全有機炭素の放射性炭素年代を求めた.すべてのコア試料は火山灰層で止まっており,PC02とPC03は堆積過程での軽微なコンタミネーションがあるものの,火山ガラスの形態・屈折率等からいずれもK-Ahテフラと同定された( (株)京都フィッショントラックによる).
タービダイト層の認定は全体に泥質で肉眼では容易でないためX線CT画像と蛍光X線コアロガーの元素濃度をもとに推定した.タービダイト層の数は,陸棚斜面から離れたPC02で最も少なく,これは乱泥流の到達が少なかったか,あるいは細粒なタービダイトが認定から漏れているためと考えられる.コア間のタービダイトの対比は,X線CT値と帯磁率の変動パターンから概ね行えたが,放射性炭素年代を用いたAge-depthモデルを用いることでPC02とPC03のほぼ全てのタービダイト層をPC11と対比することができた.3地点のコアの堆積速度に注目すると,約2千年前以降ではPC11が最も速く,約4千年前以前では陸棚斜面基部から遠いPC02がPC11より早くなっている.野根海底谷から続くチャネルは現在,PC02地点の南2 kmに位置しているが,かつて流路が近接していたか,堆積物供給が現在より多かった可能性がある.ただし,PC02のタービダイト層の数は全ての層準でPC11より少ないため,海底谷を通した堆積イベントの頻度に変化があった訳ではないと言える.
本地点の55 km南方の土佐バエ海盆は,陸から続く斜面や海底谷とは繋がっておらず洪水の影響を受けない.そのためタービダイトは地震性と解釈でき,南海トラフにおけるプレート境界地震の発生間隔とも矛盾しない約215年という値が報告されている(岩井ほか,2004,地質学論集).本研究のPC11地点におけるタービダイト層の堆積間隔は約197年と見積もられ,土佐バエの値と大きな差はない.本調査地点は陸棚斜面基部にあり,洪水の影響も排除できない地点ではあるが,地震イベント推定に有効な情報の提供が可能と考える.
本研究は原子力施設等防災対策等委託費(海域の古地震履歴評価手法に関する検討)事業の受託研究の一部として実施された.X線CTスキャン撮影と蛍光X線コアロガー分析は高知大学海洋コア国際研究所の共同利用により行った.