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[HCG26-P01] 泥炭の熱分解から生成した低分子量ガスの定量分析

キーワード:泥炭地火災、地球温暖化、煙害、ガスクロマトグラフィー
1. はじめに
泥炭は枯死した植物が一部分解され堆積することで形成されるバイオマス土壌の一種であり、リグニンやセルロース等の木質バイオマスを主成分とするほか、微量の金属成分を含む。特に大規模な泥炭地を有するインドネシアでは、エルニーニョ現象によって乾燥した泥炭地に農地開発を目的とした違法な野焼きによって火が付くことで、大規模泥炭地火災が度々発生している。泥炭地火災からは二酸化炭素やメタンなどの温室効果ガス、エチレンやフェノールなどの揮発性有機化合物が大量に大気中に放出され、温暖化や煙害等の国際的な環境問題を引き起こしているため、泥炭地火災の大気環境リスク評価が重要である。
泥炭地火災は、地表で火炎をあげて燃焼する地表火と、地中で炎を出さずに燻焼する地中火の二つの形で進行する。地中火は200-600 ℃で比較的穏やかに進行する一方で地中深くまで延焼して長期化するため、大気環境リスクが大きいと考えられる。燻焼は地表面からの距離が大きいほど低温で発生しており、各温度における泥炭熱分解の生成物量の把握がリスク評価に重要である。特に、温室効果が大きいメタンや煙害に寄与するエチレン等の低分子量ガスの定量分析は既往研究でなされておらず、これらの排出係数の把握が必要である。
本研究では、地中火を想定した酸素不在下の255-740 ℃における熱分解ガスクロマトグラフィー(Py-GC)によって、泥炭熱分解ガスの定量分析を行う。これにより熱分解温度の違いによる生成ガス量の変化を明らかにし、各熱分解温度における低分子量ガスの発生機構の解明および排出係数の決定を目指す。
2. 実験手法
泥炭試料は小型粉砕機で粉砕し、水分量を測定したのちに小型電気炉を用いて50 ℃で一晩乾燥させて作製した。使用した泥炭の組成をTable 1に示す。試料はキューリーポイントインジェクター(JCI-22,日本分析工業)にて熱分解させ、生成ガスをガスクロマトグラフ質量分析計(GCMS-QP2010PLUS,SHIMADZU)および同装置の水素炎イオン化検出(FID)を用いて分析した。泥炭試料量は2.00±0.10 mgとし、熱分解温度は255-740 ℃の範囲で9点とし、各温度で3回ずつ測定した。キューリーポイントインジェクターおよびGCのキャリアガスはヘリウムで、流量はGCMSで9.0 mL/min、GCFIDで50.0 mL/minとした。
3. 結果と考察
Py-GC測定による2-フランメタノールおよびフェノールのピーク面積、メタンおよびエチレンの排出係数の温度変化をFigure 1に示す。2-フランメタノールは358 ℃でピーク面積が最大となり、他のフラン類も同様の傾向を示した。またフェノールは445 ℃と500 ℃それぞれで生成のピークが見られ、500 ℃の時に生成量が最大となり、他のフェノール類においても同様の傾向が見られた。この傾向は泥炭中のセルロースの熱分解によるものである。一方、メタンおよびエチレンは熱分解温度が高いほど生成量が増加し、他の低分子量ガスも同様の傾向を示した。これらより、500 ℃以下の低温度領域では泥炭の一次熱分解が支配的となりフラン類やフェノール類を生成し、熱分解温度が高温になるにつれて一次熱分解で生成した物質の二次的な熱分解が支配的となり、より分子量の小さいメタンやエチレンを生成すると推測される。この結果は泥炭を構成する成分であるセルロースやリグニンといった木質バイオマスの熱分解機構と比較して矛盾しない。Table 2に実験結果から算出した、低分子量ガスの排出係数を示す。255 ℃および315 ℃における低分子量ガスの生成量は微小で、定量は困難であった。この結果を用いて、2015年にインドネシアで発生した大規模な泥炭地火災における地中火によるメタン排出量を概算した。地中火の温度が358 ℃で均一であり、深さ1 mまで延焼すると仮定し、本火災の泥炭地延焼面積(100万ha)および一般的な泥炭の密度(1.4~2.3 g/cm3)、本実験により求めた排出係数を用いて、メタン排出量を59.5~97.8 Mt-CO2と算出した。これは2019年度の日本における人為起源のメタン排出量(28.4 Mt-CO2)を凌駕する値である。
泥炭は枯死した植物が一部分解され堆積することで形成されるバイオマス土壌の一種であり、リグニンやセルロース等の木質バイオマスを主成分とするほか、微量の金属成分を含む。特に大規模な泥炭地を有するインドネシアでは、エルニーニョ現象によって乾燥した泥炭地に農地開発を目的とした違法な野焼きによって火が付くことで、大規模泥炭地火災が度々発生している。泥炭地火災からは二酸化炭素やメタンなどの温室効果ガス、エチレンやフェノールなどの揮発性有機化合物が大量に大気中に放出され、温暖化や煙害等の国際的な環境問題を引き起こしているため、泥炭地火災の大気環境リスク評価が重要である。
泥炭地火災は、地表で火炎をあげて燃焼する地表火と、地中で炎を出さずに燻焼する地中火の二つの形で進行する。地中火は200-600 ℃で比較的穏やかに進行する一方で地中深くまで延焼して長期化するため、大気環境リスクが大きいと考えられる。燻焼は地表面からの距離が大きいほど低温で発生しており、各温度における泥炭熱分解の生成物量の把握がリスク評価に重要である。特に、温室効果が大きいメタンや煙害に寄与するエチレン等の低分子量ガスの定量分析は既往研究でなされておらず、これらの排出係数の把握が必要である。
本研究では、地中火を想定した酸素不在下の255-740 ℃における熱分解ガスクロマトグラフィー(Py-GC)によって、泥炭熱分解ガスの定量分析を行う。これにより熱分解温度の違いによる生成ガス量の変化を明らかにし、各熱分解温度における低分子量ガスの発生機構の解明および排出係数の決定を目指す。
2. 実験手法
泥炭試料は小型粉砕機で粉砕し、水分量を測定したのちに小型電気炉を用いて50 ℃で一晩乾燥させて作製した。使用した泥炭の組成をTable 1に示す。試料はキューリーポイントインジェクター(JCI-22,日本分析工業)にて熱分解させ、生成ガスをガスクロマトグラフ質量分析計(GCMS-QP2010PLUS,SHIMADZU)および同装置の水素炎イオン化検出(FID)を用いて分析した。泥炭試料量は2.00±0.10 mgとし、熱分解温度は255-740 ℃の範囲で9点とし、各温度で3回ずつ測定した。キューリーポイントインジェクターおよびGCのキャリアガスはヘリウムで、流量はGCMSで9.0 mL/min、GCFIDで50.0 mL/minとした。
3. 結果と考察
Py-GC測定による2-フランメタノールおよびフェノールのピーク面積、メタンおよびエチレンの排出係数の温度変化をFigure 1に示す。2-フランメタノールは358 ℃でピーク面積が最大となり、他のフラン類も同様の傾向を示した。またフェノールは445 ℃と500 ℃それぞれで生成のピークが見られ、500 ℃の時に生成量が最大となり、他のフェノール類においても同様の傾向が見られた。この傾向は泥炭中のセルロースの熱分解によるものである。一方、メタンおよびエチレンは熱分解温度が高いほど生成量が増加し、他の低分子量ガスも同様の傾向を示した。これらより、500 ℃以下の低温度領域では泥炭の一次熱分解が支配的となりフラン類やフェノール類を生成し、熱分解温度が高温になるにつれて一次熱分解で生成した物質の二次的な熱分解が支配的となり、より分子量の小さいメタンやエチレンを生成すると推測される。この結果は泥炭を構成する成分であるセルロースやリグニンといった木質バイオマスの熱分解機構と比較して矛盾しない。Table 2に実験結果から算出した、低分子量ガスの排出係数を示す。255 ℃および315 ℃における低分子量ガスの生成量は微小で、定量は困難であった。この結果を用いて、2015年にインドネシアで発生した大規模な泥炭地火災における地中火によるメタン排出量を概算した。地中火の温度が358 ℃で均一であり、深さ1 mまで延焼すると仮定し、本火災の泥炭地延焼面積(100万ha)および一般的な泥炭の密度(1.4~2.3 g/cm3)、本実験により求めた排出係数を用いて、メタン排出量を59.5~97.8 Mt-CO2と算出した。これは2019年度の日本における人為起源のメタン排出量(28.4 Mt-CO2)を凌駕する値である。