日本地球惑星科学連合2024年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-CG 地球人間圏科学複合領域・一般

[H-CG26] 農業残渣焼却のもたらす大気汚染と健康影響および解決への道筋

2024年5月26日(日) 17:15 〜 18:45 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 6ホール)

コンビーナ:林田 佐智子(総合地球環境学研究所/奈良女子大学)、Patra Prabir(Research Institute for Global Change, JAMSTEC)、山地 一代(神戸大学)

17:15 〜 18:45

[HCG26-P04] 衛星による農作物残渣燃焼検出の課題:インド北西部における観測からの知見

*林田 佐智子1,2、森山 雅雄3、荒木 晶1 (1.総合地球環境学研究所、2.奈良女子大学、3.長崎大学)

キーワード:農業残渣焼却、大気汚染、火災検知、衛星観測

生態系の焼失は地球の物理的・社会的システムに大きな影響を与える。燃焼活動の原因と影響を理解することは、将来の火災を防止するための効果的な対策を開発する上で極めて重要である。衛星によるバイオマス燃焼の観測には、燃焼面積(BA)の同定や、高温で燃焼する活動的火災(AF)の熱エネルギーの観測が含まれる。VASのような静止衛星搭載センサーやNOAA AVHRRのような極軌道衛星搭載センサーが1980年以来活用され、近年ではMODISやVIIRSのような新しいセンサーが高度な機能を提供している。
しかし、作物残渣燃焼(CRB)の検出は、さまざまな要因のために依然として困難である。AFの観測の空間スケールは小さく、放射量信号の検出を困難にしている。さらに、各燃焼イベントの継続時間が通常1~2時間と短いため、検出漏れの可能性が高くなる。雲、煙、その他の大気要因がさらに観測を妨げている。BAの検出は、焼却後に行われる耕作や播種などの農業活動によって地表面状態が変化するという課題に直面する。さらに、収穫によって多くの植生が失われるため、収穫直後と焼却後の状況の区別が難しいという問題もある。
私たちは、Aakashプロジェクトの一環としてインド北西部のパンジャブ地方における稲の収穫後に行われる稲藁焼きに焦点を当てて解析を行った。この地域については、AF数の傾向を社会情勢との関連で解釈する長期解析の研究が数多く発表されている。しかし、衛星観測から推定されるAFの数は、実際に比べてかなり過小評価されていることが知られている(Liu et al. Atmos. Environ.-X, 2020)
観測にわずか50分の時間差しかない、NOAA-20(観測時刻12:40)とSuomi(観測時刻13:30)に搭載された2つのVIIRSデータを解析したところ、両センサーが近接した地点で観測した事例はごくわずかであった(黒木と林田, JPGU2022)。このことは、個々の火災の継続時間が短いために、周回衛星による瞬時観測ではかなりの数の火災が検出されないことを示唆している。このような制約があるにもかかわらず、多くの先行研究が示すように、軌道衛星で観測されたAFの長期的傾向が代表的なものであると信じられているのはなぜだろうか。MODISやVIIRSの観測時刻の前後に稲わらの燃焼が集中しているのであれば、ある程度の代表性が期待できる。一方、農家が規制を恐れて夕方に焼却するなどの行動変化が起これば、「見かけ上の減少」が観察されることになる。パンジャブ州の地元紙では、農家が意図的に夕方に焼却をする事例が数多く報道されており、発表者自身が目撃し、写真に収めている事例もある。
この発表では、NOAA-20とSuomiの観測の比較分析を通じて、静止衛星データからの洞察を補足しながら、火災検知の信頼性について議論する。CRBの動態を包括的に理解するためには、衛星を用いた検出手法を改良することが重要であろう。