[H-DS11] 津波とその予測

[HDS11-10] 福山港泊地で予測される津波伝播

*向井 厚志¹ (1.福山市立大学都市経営学部)

キーワード：福山港、南海トラフ地震、副振動

福山市は瀬戸内海沿岸部に位置する都市であり，近い将来に発生する南海トラフ地震時には，最大4m高の津波到来が予測されている。この津波は，瀬戸内海から続く細長い水路状の福山港泊地にも侵入することになる。その際，水路の形状に応じた固有周期によって，津波高が増大する可能性が考えられる。本研究では，南海トラフ地震発生に伴う津波伝播によって生じる福山港泊地内の海面上昇量を推定した。
福山港泊地は瀬戸内海に面した福山港から続く距離約8.5kmの折れ曲がりのある細長い水路であり，その幅は950mから150mへと内陸部ほど狭くなっている。向井他(2022)は，福山港泊地において2021年9月1日～11月4日に潮位変化の連続観測を実施した。その潮位変化の周波数特性を調べたところ，いずれの観測点においても海洋潮汐の鋭いピークに加えて，周期42分付近に幅広いピークが現れた。この周期は，水深10m，長さ8.5kmの長方形湾内で生じる1/4波長の副振動の解析的な周期56分に近い。そのため，観測された幅広いピークは，福山港口に節をもち福山港泊地最奥部で最大振幅となる副振動と考えられる。向井(2023)は，非線形浅水方程式を用いて規則波が入射する場合の福山港泊地の潮位変化を計算した。その結果，実際の福山港泊地の海岸線形状や水深分布に基づく数値計算においても，観測された周期に近い45分付近に副振動が現れることが確認された。
南海トラフ地震に伴う津波が満潮時に福山市沿岸部に到達するとき，その津波高は最大4mとされる。海上保安庁の津波シミュレーションによると，福山港沖合に到来した津波は約1時間周期の潮位変化をもたらす。この周期は福山港泊地の副振動周期に近く，福山港泊地の細長い水路にも侵入した津波が泊地最奥部で増幅される危険性がある。そこで，副振動の数値計算と同様な向井(2023)の方法を用いて，津波到来による福山港泊地内の潮位変化を調べた。福山港沖合における最大海面上昇は地震発生の5.9時間後に生じる約1.3mであるのに対して，泊地最奥部の最大海面上昇は7分遅れで現れ，その上昇量は約2.8mであった。津波到来が満潮時であれば，この海面上昇による潮位は平均海水面から約5mの高さとなり，泊地最奥部の護岸堤防の高さに近い状況となる。そのため，液状化現象による地盤沈下の可能性も考慮すると，堤防の破損がなかったとしても，福山市街地への津波侵入が危惧される。なお，現在，福山市では，福山港泊地の一部の埋め立てが検討されている。そうした埋め立てが実施された場合における福山港泊地の津波シミュレーションも実施した。