日本地球惑星科学連合2024年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-DS 防災地球科学

[H-DS11] 津波とその予測

2024年5月31日(金) 15:30 〜 16:45 国際会議室 (IC) (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:馬場 俊孝(徳島大学大学院産業理工学研究部)、室谷 智子(国立科学博物館)、座長:南 雅晃(気象庁気象研究所)、三反畑 修(東京大学地震研究所)

15:45 〜 16:00

[HDS11-12] 沿岸津波観測記録から推定した2024年1月1日の能登半島の地震における津波の波源域

*対馬 弘晃1南 雅晃1林 豊1 (1.気象庁気象研究所)

キーワード:2024年1月1日能登半島地震、津波波源域、津波逆伝播、富山湾

2024年1月1日16時10分頃に能登半島でM7.6の地震が発生し,日本海沿岸の広域で津波が観測された.この地震・津波の発生機構の解明にむけて,津波観測記録を用いた断層すべりの推定等が進められている.しかし,海域の断層は陸域の地震計・GNSSの観測網から離れており,現時点ではその位置や形状の不確かさが大きい.津波観測記録を用いて,断層を仮定することなく津波波源域の範囲を限定できれば,波形解析によって断層すべり分布や初期水位分布を推定する際の大きな参考情報になることが期待できる.そこで,本研究では,沿岸の津波到達時刻を用いて,津波波源域の推定を行った.

津波波源域の推定には,津波逆伝播解析を用いた.逆伝播解析では,ホイヘンスの原理を利用して,各観測点を起点に,観測走時に相当する距離だけ津波を逆伝播させる.この逆伝播線に沿ったいずれかの位置に波源域の端があると期待されるため,複数の観測点からの逆伝播線を描き,それらに囲まれた領域をとることで,津波波源域を推定できる.本研究では,日本海沿岸観測点11点の第一波到達時刻の検測値(気象庁の暫定値)を用いた.また,津波は地震発生(16時10分)と同時に瞬時に発生したと仮定した.逆伝播の計算には,ソフトウェアTsunami Travel Time (Geoware)及び,文部科学省の「日本海地震・津波調査プロジェクト」で整備された地形データと海図の水深値から作成した地形モデル(1秒)を用いた.

推定された津波波源域(Fig. 1)には,2つの特徴がみられた.1つめの特徴は,能登半島を含む波源域は長さ約100 kmにわたり,能登半島の東北東方向の沖合まで及ぶことである(Fig. 1の赤色の網掛け領域).波源域の東端を拘束している観測点における初動極性は押し(U)であることから,能登半島東方の海域では隆起が卓越したと考えられる.一方,逆伝播線が少ないことに起因して,波源域の南北方向の広がりに対する拘束は弱いため,波形情報も活用して拘束を強めていく必要があると考える.2つめの特徴は,富山検潮所の津波到達時刻(地震発生後3分)に基づく逆伝播線は,富山湾内に留まっていることである(Fig. 1).これは,前述の波源域(赤色の網掛け領域)からは明らかに離れており,富山湾内にも波源が存在する可能性を示唆している.今後,富山湾沿いのほかの地点における津波到達時刻(たとえば,南・他, 2024, 本大会)に基づく逆伝播線を追加するなどして,その波源の位置等をさらに限定していく予定である.

謝辞:本研究では,文部科学省「日本海地震・津波調査プロジェクト」で整備された地形データを使用した.また,気象庁地震火山部地震津波監視課が海図から作成した水深値を使用した.本研究の一部は,JSPS科研費JP23K17482の助成を受けている.