日本地球惑星科学連合2024年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-DS 防災地球科学

[H-DS11] 津波とその予測

2024年5月31日(金) 15:30 〜 16:45 国際会議室 (IC) (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:馬場 俊孝(徳島大学大学院産業理工学研究部)、室谷 智子(国立科学博物館)、座長:南 雅晃(気象庁気象研究所)、三反畑 修(東京大学地震研究所)

16:15 〜 16:30

[HDS11-14] 2023年10月鳥島近海津波:連続的な津波発生プロセスによる波高増幅現象

*三反畑 修1佐竹 健治1武村 俊介1綿田 辰吾1前田 拓人2久保田 達矢3 (1.東京大学 地震研究所、2.弘前大学 大学院理工学研究科、3.防災科学技術研究所)

キーワード:津波、Izu-Bonin Arc、T相、津波地震

2023年10月9日(日本時間: UTC+9),伊豆・小笠原諸島および東京から沖縄にかけての沿岸部で,最大振幅60 cmの津波が観測された.幸い人的被害の報告はなかったが,津波を引き起こすような大規模地震は起こっておらず地震観測に基づく既存の津波警報システムでは対応できなかったため,津波が八丈島に到達した後での津波注意報発令となった.米国地質調査所の地震カタログによると,津波が観測され始める前の時間帯に,孀婦(そうふ)岩という突岩を頂部に持つ海底火山から30–40 km西の海域で,実体波マグニチュード4-5の中規模地震が繰り返していた.気象庁の震央区分で「鳥島近海」域で発生したこれらの中規模地震との関連性から,今回の津波を「鳥島近海津波」と呼ぶ.経験的な地震規模と津波規模の経験則から推定されるよりも今回の津波の規模は特異に大きく,その原因究明が喫緊の課題である.

本研究では,鳥島近海津波の発生プロセスを調べるため,日本の南西沖合に設置された海底地震・津波観測網DONET(Dense Oceanfloor Network system for Earthquakes and Tsunamis)の海底水圧計の津波記録を用いた.まず近接する複数の水圧計の津波波形記録に対して波形スタッキング手法を適用し,DONETで観測された津波の特徴を調べた.その結果,5時40分頃に津波が到達してから約一時間半も遅れて最大波が到達したこと,長時間にわたって観測された津波が複数の波群で構成されていたことが示され,津波が複数回にわたって立て続けに到来したことを示していた.

そこで我々は,スタック波形に対して波形デコンボリューション解析を行い,津波の震源時間関数を推定した.ここでは,複数の津波生成イベントが類似の位置で異なる時刻に発生し,各イベントが同じ波形かつ振幅は異なる津波を引き起こしたと仮定した.スタック波形を観測データ,スタック波形から切り出した津波シグナルの初期部分を経験的グリーン関数として解析した.その結果,約20回の津波発生イベントから構成される津波の震源時間関数を推定し,そのうち4時53分から5時26分まで,約一時間半で10回以上繰り返し生成された津波の重ね合わせによって,観測データの主要部分を再現することができた.また,主要な津波生成イベントはいずれも,孀婦岩周辺で観測された14回の中規模地震とほとんど同時刻に発生していた.DONETの海底地震計に記録されたT相の解析によって,顕著な水中音波がほぼ同時に励起されていたことが分かった.主要イベントのうち,後に発生した津波生成イベントほど津波振幅が大きく,発生間隔が短くなる傾向が見られた.後半の大きめのイベントは200〜300秒の発生間隔で繰り返しており,これらの発生間隔が津波波形の特徴的な周期とほぼ一致していたため,波の位相が合致した複数の津波が重なり合い,各イベントによる津波振幅に比べて約二倍に振幅が増幅されたことが分かった.

本研究は,数時間のうちに十回以上も津波が頻発し,それぞれの波の重ね合わせによって津波波高が増幅するという稀有な現象を,世界で初めて観測に基づき立証した.また,津波,地震波,および顕著な水中音波がほぼ同時に発生したことを示した.このことは,孀婦岩周辺の海底における火山活動や土砂崩れなどの海底変動現象が発生したことを示唆しているが,同現象のメカニズム解明には更なる調査が必要である.今回の鳥島近海津波は,沖合の津波観測システムが敷設されていない伊豆・小笠原海域での津波予測の難しさを浮き彫りにした.多数の活動的な火山島や海底火山など,同海域は津波発生の潜在性を有した環境にあり,同海域周辺での津波災害への備えを強化する必要がある.

[参考文献]
Sandanbata, O., Satake, K., Takemura, S., Watada, S., Maeda, T., & Kubota, T. (2024). Enigmatic tsunami waves amplified by repetitive source events near Sofugan volcano, Japan. Geophysical Research Letters, 51, e2023GL106949. https://doi.org/10.1029/2023GL106949