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[HDS11-P06] 津波数値計算による1596年慶長豊後地震の断層破壊域および海底地すべり規模の推定

キーワード:1596年慶長豊後地震、津波数値計算、海底活断層、海底地すべり
内陸地殻内で発生する地震(活断層型地震)は,震源が海底にある場合には津波を引き起こすことがある.しかしながら,活断層型地震によって発生する津波は,プレート境界地震によって発生する津波と比較して確認された事例が少ないため,津波の波源と規模について不確かな点が多いという課題がある.本研究で対象とした1596年慶長豊後地震は,中央構造線断層帯の西端に位置する大分県の別府湾に分布する海底活断層で発生したM 7.0±1/4の活断層型地震である(宇佐美,1987).歴史記録によれば,この地震では津波が発生しており,別府湾沿岸の全域に浸水被害をもたらしたことが知られている.その津波波高は,別府湾内では4~5 m,湾口では6 m程度,そして湾外の臼杵においては2 m程度に達したと推定されている(松崎ほか,2022).この津波に対して石辺・島崎(2005)は,別府湾に分布する正断層が一括して活動したモデルにより津波数値計算を行った.その結果は歴史記録の津波波高を説明できておらず,断層破壊域が別府湾内の正断層にとどまらず別府湾から北東方向に分布する右横ずれ断層にまで及んでいた可能性と,海底地すべりなどの二次的な要因によって津波が発生していた可能性が提案されている.しかしながら,これらの可能性は未だ検討されていない.そこで本研究では,断層モデルと海底地すべりモデルを用いて津波数値計算を行い,1596年慶長豊後地震の断層破壊域と海底地すべり規模の推定を試みた.
津波数値計算には,津波シミュレーションコードのJAGURS(Baba et al., 2015)を用いた.断層モデルについては,1596年慶長豊後地震と同規模の地震を想定したモデル(大分県,2013)と活断層データベース(産業技術総合研究所,2021)による断層の位置に基づき,別府湾の陸域と海域に分布する正断層を5つと別府湾から北東方向に分布する右横ずれ断層を4つのセグメントに分け,任意のすべり量と共に様々なセグメントを組み合わせることで12パターンの津波数値計算を実施した.海底地すべりモデルについては,文部科学省研究開発局・京都大学大学院理学研究科(2015)により別府湾の海底で確認された海底地すべり地形を,Sabeti and Heidarzadeh (2020) の半経験式に適用して津波の初期水位を求めることで設定した.海底地すべり地形は,別府沖(幅600 m,長さ1000~1200 m,厚さ2~6 m)と大分沖(幅3000 m,長さ1300 m,厚さ10 m)の2か所を対象とし,津波の初期水位をそれぞれ4 mと8 mとして計算を実施した.
津波数値計算により出力した津波波高と歴史記録から推定された津波波高(松崎ほか,2022)を比較した結果,活断層調査(例えば,地震調査研究推進本部,2005,2015)により推定された規模Mw 7.2で別府湾に分布する正断層が一括して活動したモデルでは,別府湾沿岸の全域で浸水が起きたが,その波高は2~3 mであり,歴史記録の波高を下回る結果となった.一方で,推定された規模を上回るMw 7.3で断層が活動したモデルでは,津波波高が3~6 mとなり,歴史記録の再現性が高くなった.正断層と右横ずれ断層が活動したモデルでは,右横ずれ断層で発生する津波の大半が別府湾外に伝播することにより,別府湾内の津波波高は正断層のみを対象とした計算の結果と比べてほとんど変化しない結果となった.海底地すべりモデルによる計算については,地すべり津波だけでは浸水しない結果となった.一方で,地すべり津波を断層運動による津波発生から30~60分の時間差を設けて発生させた計算では,別府湾南岸において津波が増幅する結果が得られた.別府湾南岸は,断層モデルのみの計算では歴史記録から推定された津波波高を1 m以上下回る結果となっており,海底地すべりモデルを組みあわせることで歴史記録の再現性が高くなった.以上のことから,1596年慶長豊後地震で発生した津波は,断層運動が主要因であり,海底地すべりによる津波が局所的に津波を増幅させていた可能性が示唆された.
津波数値計算には,津波シミュレーションコードのJAGURS(Baba et al., 2015)を用いた.断層モデルについては,1596年慶長豊後地震と同規模の地震を想定したモデル(大分県,2013)と活断層データベース(産業技術総合研究所,2021)による断層の位置に基づき,別府湾の陸域と海域に分布する正断層を5つと別府湾から北東方向に分布する右横ずれ断層を4つのセグメントに分け,任意のすべり量と共に様々なセグメントを組み合わせることで12パターンの津波数値計算を実施した.海底地すべりモデルについては,文部科学省研究開発局・京都大学大学院理学研究科(2015)により別府湾の海底で確認された海底地すべり地形を,Sabeti and Heidarzadeh (2020) の半経験式に適用して津波の初期水位を求めることで設定した.海底地すべり地形は,別府沖(幅600 m,長さ1000~1200 m,厚さ2~6 m)と大分沖(幅3000 m,長さ1300 m,厚さ10 m)の2か所を対象とし,津波の初期水位をそれぞれ4 mと8 mとして計算を実施した.
津波数値計算により出力した津波波高と歴史記録から推定された津波波高(松崎ほか,2022)を比較した結果,活断層調査(例えば,地震調査研究推進本部,2005,2015)により推定された規模Mw 7.2で別府湾に分布する正断層が一括して活動したモデルでは,別府湾沿岸の全域で浸水が起きたが,その波高は2~3 mであり,歴史記録の波高を下回る結果となった.一方で,推定された規模を上回るMw 7.3で断層が活動したモデルでは,津波波高が3~6 mとなり,歴史記録の再現性が高くなった.正断層と右横ずれ断層が活動したモデルでは,右横ずれ断層で発生する津波の大半が別府湾外に伝播することにより,別府湾内の津波波高は正断層のみを対象とした計算の結果と比べてほとんど変化しない結果となった.海底地すべりモデルによる計算については,地すべり津波だけでは浸水しない結果となった.一方で,地すべり津波を断層運動による津波発生から30~60分の時間差を設けて発生させた計算では,別府湾南岸において津波が増幅する結果が得られた.別府湾南岸は,断層モデルのみの計算では歴史記録から推定された津波波高を1 m以上下回る結果となっており,海底地すべりモデルを組みあわせることで歴史記録の再現性が高くなった.以上のことから,1596年慶長豊後地震で発生した津波は,断層運動が主要因であり,海底地すべりによる津波が局所的に津波を増幅させていた可能性が示唆された.