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[HGG02-P03] 活断層沿いの道利用の変遷と自然環境の変化―阿寺断層を事例にー

キーワード:阿寺断層、古道、地形
活断層は地震という災いを引き起こす.一方で,長い期間を使って地形を形成するという恵みをもたらす.岐阜県東部に分布する阿寺断層は約66 kmに及ぶ活断層である(地震調査研究推進本部, 2004).本研究では,阿寺断層中部に当たる岐阜県中津川市加子母(以下,加子母地域)で現地調査を行い,道路の変化と活断層の関係,及び道路周辺における自然環境について調査した.
加子母地域の現在の国道は,地域を縦断して流れる白川近傍に存在しているが,大正時代の国道は現在の国道より100 mから200 m北東に位置していた.また,これ以前の道はさらに北東に位置していたとされる.そこで,江戸時代に使用されていた街道(以下,南北街道),南北街道以前に使われていた古道(以下,古道)の位置の抽出を試みた.抽出した2つの道を現在の国道と照らし合わせたところ,南北街道や古道は現在の国道よりも200 mから500 m 北東側に位置していることが確認された.特に古道は活断層の近傍にあり,活断層の変位や破砕帯の分布よって形成されたリニアメントに沿って道が形成されたと推察できる.断層運動により地形は変位して地形境界を形成し,侵食も加わり峠を形成する.加子母地域には,阿寺断層沿いに峠が複数ある.このような地形的制約から古道は活断層近傍の山地内や山麓に形成されたと考えられる.また,加子母地域を含む裏木曽三ヶ村は古来より伊勢神宮の式年遷宮で使用される良質なヒノキの生息地として知られている.現在も林業が盛んな地域であり,古道周辺には多くの林道が造られている.このような歴史的背景からも,断層の恵みを受け,活断層近傍に古道が形成されたと考えられる.また,断層沿いにはいくつかの湧水が確認できた.加子母地域では水わさびや蛍といった動植物が断層沿いの湧水からの恵みとして挙げられている(原田ほか,2023).このような自然の恵みがある一方で,現在の国道と大正時代の国道の周辺にはキク科の外来植物であるセイタカアワダチソウの繁殖が見受けられる.セイタカアワダチソウの他感作用成分により,生態系の破壊や景観の喪失につながることが危惧される.本研究では,2023年10月31日から11月4日にかけて加子母地域の国道を中心とした林道を除く生活道路周辺のセイタカアワダチソウの生息域の分布を調査した.その結果,186箇所で生息を確認することができた.生息域は交通量の多い道路や資材置き場等に多く分布していることが確認できた.このことから,主に自動車の移動によって種子が運搬され,生息域の拡大が行われていると考えられる.加子母地域のセイタカアワダチソウの分布とe-Sat国勢調査2020年小地域(基本単位区)を使用し,セイタカアワダチソウの空間相関を検証した.大域空間統計量のモランI統計量を採用し,R言語によって分析を行った.この結果,セイタカアワダチソウの空間相関は確認されなかった.耕作放棄地で分布している傾向もあることから,自動車以外の要因でも繁殖している可能性がある.今後の分布変化に着目して検証していくことが望まれる.
本研究では,江戸時代の南北街道,南北街道以前に使われていた古道の分布調査,古道周辺の湧水や生物などの分布調査,現在の国道周辺のセイタカアワダチソウの分布調査を通し,加子母地域における道路環境の変化を確認した.その結果,かつての道路は活断層の存在が関係していることが示唆された.また,セイタカアワダチソウの空間相関について検証したところ,相関は確認されなかった.今後,道路と活断層,セイタカアワダチソウの関係性について科学的解明を行う必要があると考える.
引用文献
地震調査研究推進本部,2004,阿寺断層の長期評価について,https://www.jishin.go.jp/main/chousa/katsudansou_pdf/52_atera.pdf.(2023年10月29日閲覧)
原田隼輔・土井駿仁・天児幹治・安江健一,2023,活断層の恵みを訪ねて:阿寺断層の例,第33回社会地質学シンポジウム論文・要旨集,13-14.
政府統計の総合窓口(e-Stat),調査項目を調べる-国勢調査(総務省)「小地域(基本単位区)(JGD2011)」,https://www.e-stat.go.jp/,(2024年1月10日閲覧)
加子母地域の現在の国道は,地域を縦断して流れる白川近傍に存在しているが,大正時代の国道は現在の国道より100 mから200 m北東に位置していた.また,これ以前の道はさらに北東に位置していたとされる.そこで,江戸時代に使用されていた街道(以下,南北街道),南北街道以前に使われていた古道(以下,古道)の位置の抽出を試みた.抽出した2つの道を現在の国道と照らし合わせたところ,南北街道や古道は現在の国道よりも200 mから500 m 北東側に位置していることが確認された.特に古道は活断層の近傍にあり,活断層の変位や破砕帯の分布よって形成されたリニアメントに沿って道が形成されたと推察できる.断層運動により地形は変位して地形境界を形成し,侵食も加わり峠を形成する.加子母地域には,阿寺断層沿いに峠が複数ある.このような地形的制約から古道は活断層近傍の山地内や山麓に形成されたと考えられる.また,加子母地域を含む裏木曽三ヶ村は古来より伊勢神宮の式年遷宮で使用される良質なヒノキの生息地として知られている.現在も林業が盛んな地域であり,古道周辺には多くの林道が造られている.このような歴史的背景からも,断層の恵みを受け,活断層近傍に古道が形成されたと考えられる.また,断層沿いにはいくつかの湧水が確認できた.加子母地域では水わさびや蛍といった動植物が断層沿いの湧水からの恵みとして挙げられている(原田ほか,2023).このような自然の恵みがある一方で,現在の国道と大正時代の国道の周辺にはキク科の外来植物であるセイタカアワダチソウの繁殖が見受けられる.セイタカアワダチソウの他感作用成分により,生態系の破壊や景観の喪失につながることが危惧される.本研究では,2023年10月31日から11月4日にかけて加子母地域の国道を中心とした林道を除く生活道路周辺のセイタカアワダチソウの生息域の分布を調査した.その結果,186箇所で生息を確認することができた.生息域は交通量の多い道路や資材置き場等に多く分布していることが確認できた.このことから,主に自動車の移動によって種子が運搬され,生息域の拡大が行われていると考えられる.加子母地域のセイタカアワダチソウの分布とe-Sat国勢調査2020年小地域(基本単位区)を使用し,セイタカアワダチソウの空間相関を検証した.大域空間統計量のモランI統計量を採用し,R言語によって分析を行った.この結果,セイタカアワダチソウの空間相関は確認されなかった.耕作放棄地で分布している傾向もあることから,自動車以外の要因でも繁殖している可能性がある.今後の分布変化に着目して検証していくことが望まれる.
本研究では,江戸時代の南北街道,南北街道以前に使われていた古道の分布調査,古道周辺の湧水や生物などの分布調査,現在の国道周辺のセイタカアワダチソウの分布調査を通し,加子母地域における道路環境の変化を確認した.その結果,かつての道路は活断層の存在が関係していることが示唆された.また,セイタカアワダチソウの空間相関について検証したところ,相関は確認されなかった.今後,道路と活断層,セイタカアワダチソウの関係性について科学的解明を行う必要があると考える.
引用文献
地震調査研究推進本部,2004,阿寺断層の長期評価について,https://www.jishin.go.jp/main/chousa/katsudansou_pdf/52_atera.pdf.(2023年10月29日閲覧)
原田隼輔・土井駿仁・天児幹治・安江健一,2023,活断層の恵みを訪ねて:阿寺断層の例,第33回社会地質学シンポジウム論文・要旨集,13-14.
政府統計の総合窓口(e-Stat),調査項目を調べる-国勢調査(総務省)「小地域(基本単位区)(JGD2011)」,https://www.e-stat.go.jp/,(2024年1月10日閲覧)
