[H-GM03] 地形

[HGM03-02] 森林斜面土層底部における土壌水分変化によるせん断変形の進行とその斜面物質移動における役割

*園田 美恵子

キーワード：森林斜面、せん断変形、土壌水分変化、斜面物質移動、気候温暖化

森林斜面上部に見られる表層土の緩やかな移動（クリープ）については、豪雨時（水分飽和時）と不飽和時で、支配するメカニズムが異なると考えられる。豪雨時には水流力に駆動された土層のせん断変形が斜面物質の移動に大きな役割を果たし（Sonoda 1998）、不飽和時には、特定の土壌水分状況における土層のせん断変形が重要な役割を果たすと推定する。後者のメカニズムに迫るため、Sonoda and Kurashige (2017）に続き、土層の更に深い部分にまで測定範囲を広げ、ストレインプローブによる土層の歪測定とテンシオメーターによる土壌水分変化の測定を行い、不飽和時の土層挙動と土壌水分変化の関係を調べた（Sonoda et al.　発表準備中）結果によると、乾燥から湿潤への移行期に上部斜面の土層底部にせん断変形が進行し、時にはせん断破壊した。結果的に土層底部に強度的な弱線部が形成され、これが豪雨時の土層のすべりに影響するであろうことが分かった。つまり、不飽和時においては、乾燥から湿潤への移行期の土層底部のせん断変形が、斜面全体の物質移動に重要な役割を果たす可能性が明らかになってきた。その下敷きとなる測定データを紹介する。
更に、地球温暖化が進行する現在では、中緯度地域に熱波や豪雨が襲来し、乾燥と湿潤の変化が以前よりも顕著になってきている。温暖湿潤気候下で国土面積の70 %が森林で覆われている日本では、森林植生によって土壌の乾燥がかなり緩和されている。それでも、乾燥から湿潤への土壌水分変化の幅は今後増大することが予想される。よって、上部斜面では、乾燥と湿潤のギャップによって引き起こされる土層底部のせん断変形の進行は激しくなり、豪雨時の水流力による土層のせん断変形や物質移動と合わせ、中腹部斜面への物質移動は増加するであろう。中腹部斜面では、複次的な崩壊による物質移動が加速し、斜面裾部（テーラス）への物質移動も増加する。全体として、温暖化の影響により、斜面の上部から裾部への、斜面物質の移動は促進されるであろう。
＜文献＞　
Sonoda, M. 1998, A numerical simulation of displacement of weathered granite on a forest slope. Trans. Japan. Geomorph. Union 19-3, 135-154.
Sonoda, M. and Kurashige, Y., 2017. Characteristics of surface soil creep on a forest slope in Japan. Geomorphology 288, 1-11.
Sonoda, M., Kurashige, Y., Yamada, S. and Nonaka, M. Soil creep induced by moisture changes at the inner slope soil layer in a forest of weathered granite, Japan.