日本地球惑星科学連合2024年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-QR 第四紀学

[H-QR05] 第四紀:ヒトと環境系の時系列ダイナミクス

2024年5月30日(木) 09:00 〜 10:30 106 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:白井 正明(東京都立大学)、横山 祐典(東京大学 大気海洋研究所 )、吾妻 崇(国立研究開発法人産業技術総合研究所)、里口 保文(滋賀県立琵琶湖博物館)、座長:白井 正明(東京都立大学)、石輪 健樹(国立極地研究所)

10:00 〜 10:15

[HQR05-05] 中央アナトリア地方に位置するカマン・カレホユック遺跡内の炉で採取した炭から考察する金属加工:予察的研究

*佐竹 渉1多田 隆治1多田 賢弘1鈴木 健太1、森脇 涼太1山田 桂2、松村 公仁3、大村 幸弘3、松井 孝典1 (1.千葉工業大学、2.信州大学、3.アナトリア考古学研究所)

キーワード:蛍光X線分析、炭、金属加工、前期青銅器時代、トルコ

トルコ共和国のアナトリア地方は、金属治金技術が世界的に見ても極めて早い時期に生まれ発達した地域であり、特に製鉄に関しては紀元前1400年頃にアナトリア地方のほとんどを支配下に置いたヒッタイト帝国から始まったと考えられている。しかし、ヒッタイト帝国の首都のボアズキョイ(古代名ハットゥシャ)遺跡から南西に約120キロメートル離れた場所に位置するカマン・カレホユック遺跡においては、ヒッタイト帝国時代より1000年以上古い前期青銅器時代の層から鉄製品が出土しており、ヒッタイト帝国以前にも鉄が利用されていたことが示唆されている。さらに本遺跡では詳細な文化編年が構築されており、鉄器時代以前の後期・中期青銅器時代、前期青銅器時代の文化層が遺跡内に確認されていることから、遺跡には銅、青銅、鉄と金属技術の変遷が残されていると考えられる。
 千葉工業大学を中心とする我々の研究グループはこれまでに、カマン・カレホユック遺跡の前期青銅器時代の堆積物(ミドン堆積物)に含まれる炭に銅が濃集していることを発見した。そこで、本研究では遺跡内の炉から炭を採取し、炭に含まれている銅と鉄の量について相対的に評価することで、金属加工を目的に使われていた炉かどうか、さらには鉄の利用がはじまった時期を推定できないかについて調べるため、予察分析を行った。
分析試料として、カマン・カレホユック遺跡内、北区SectorⅢに位置する前期青銅器時代の6か所の部屋の炉跡から炭を採取した。さらに比較対象として、大規模な火災を受けたことによりできたと考えられる火災層と呼ばれる層準から、屋根材として使用された木材が燃えてできたと考えられる炭も採取した。この炭を含む火災層は北区SectorⅥ、前期青銅器時代に位置している。分析にはポータブル型蛍光X線分析装置 (ELIO map, Bruker)を使用し、40kV、100μA、測定時間は1点あたり120秒の条件で測定した。本装置では軽元素の分析が困難であり、定量分析値に信頼性がないため、得られた銅と鉄のピークカウント数から相対的に評価した。
 炉から採取した炭は、得られた銅と鉄のピークカウント数に幅が見られた。さらに、炉から得られた炭の中には、火災層から採取した炭及び、先行研究で分析したミドン中の炭と比較して、銅、鉄ともに大きなピークカウント数を持つものが見られた。これらの結果は、炉の使用用途を反映している可能性があり、様々な炉から採取した炭を本手法により分析することで、金属加工技術の変遷について知見が得られる可能性がある。今後は試料数を増やしこの仮説の検証を進めるとともに、炭にどのように鉄や銅が含まれているかを調べるため、電子顕微鏡での観察を検討したい。