日本地球惑星科学連合2024年大会

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[J] ポスター発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-QR 第四紀学

[H-QR05] 第四紀:ヒトと環境系の時系列ダイナミクス

2024年5月30日(木) 17:15 〜 18:45 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 6ホール)

コンビーナ:白井 正明(東京都立大学)、横山 祐典(東京大学 大気海洋研究所 )、吾妻 崇(国立研究開発法人産業技術総合研究所)、里口 保文(滋賀県立琵琶湖博物館)

17:15 〜 18:45

[HQR05-P02] 東北地方の過去2万年間の時空間的なバイオーム変遷の復元

*五反田 克也1 (1.千葉商科大学)

キーワード:バイオマイゼーション、花粉分析、冷温帯落葉広葉樹林、東北地方

はじめに
花粉分析学的データを用いた日本列島の植生変遷は、地域ごとに多くの分析がされており明らかにされている(たとえば安田・三好2002)。Gotanda et al. (2002)は、花粉分析データから定量的に植生を復元する手法としてPrentice et al. (1996)によるBiomization法を日本に適応させ、表層花粉データを用いて76%の精度での復元に成功し、その後、西南日本の過去2万年間の時空間的な植生変遷を明らかにした。特に、暖温帯常緑広葉樹林(照葉樹林)の最終氷期最寒冷期の逃避地について考察を行なっている(Gotanda and Yasuda 2008)。
本研究では、Biomization法を用いて落葉広葉樹林の変遷を明らかにするため、関東地方および東北地方の過去2万年間の植生変遷を明らかにする。
方法
すでに公表されている花粉分析学的研究の論文を収集し、過去2万年間の花粉ダイアグラムの数値化を実施した。各分析層準の年代については、14C年代値および高域火山灰の噴出(降下)年代値(町田・新井、2003)をもとに、各分析層準の年代を内挿法・外挿法によって求めた。
集められた花粉分析データをBiomization法で用いる32の木本花粉分類群にまとめ、各花粉出現率を再計算した。再計算された花粉出現率は1000年ごとに集計をした。
Biomization法については、Gotanda et al.(2002)と同様のものである。
各分析地点の各年代の花粉寄与率を計算し、1000年ごとに地図化した。
結果と考察
復元された各分析地点のバイオームについて、20k yr BPから1k yr BPまでの分布図を作成した。
最終氷期最寒冷期(20k yr BP – 17k yr BP)
分析地点が少ないが、標高の高い地点から低い地点まで冷温帯針広混交林が出現しており寒冷な気候であったと思われる。
寒冷な気候にもかかわらず、冷温帯針葉樹林の出現がないことは、Biomization法による冷温帯針葉樹林の復元率の悪さが影響していると考えられる。
16k yr BP – 11 k yr BP
冷温帯針広混交林の出現地点が減少し、冷温帯落葉広葉樹林の出現地点が増加していくことが見てとれる。気候の温暖化により関東地方付近に存在していた冷温帯落葉広葉樹林が北上を始めたためであると考えられる。
10k yr BP – 6k yr BP
東北地方では温帯落葉広葉樹林が広く出現しており、暖温帯常緑広葉樹林の出現は見られない。気候の温暖化が進んだ時期ではあるが、暖温帯常緑広葉樹林の関東地方よりも北への進出が見られなかった。特に、太平洋側の海岸線付近でも進出が見られていないことは植生の移動速度によるものの可能性もある。
5k yr BP – 1k yr BP
福島県から青森県まで広く温帯落葉広葉樹林が分布している。現在では、太平洋側では仙台付近、日本海側では秋田県付近まで暖温帯常緑広葉樹林が見られるが、本研究では沿岸部のデータでも復元がされなかった。
暖温帯常緑広葉樹林は、関東地方での復元結果から6k yr BPには出現していること(五反田 2012)から、東北地方への進出はなかった可能性が高い。
まとめ
東北地方の過去に行われた花粉分析データからBiomization法を用いて過去2万年間のバイオーム分布の復元を行なった。
最終氷期最寒冷期には、冷温帯針広混交林が広く分布しており、気候の温暖化と共に温帯落葉広葉樹林が北上し、8k yr BPには東北地方は広く温帯落葉広葉樹林に覆われた。しかし、暖温帯常緑広葉樹林は、関東地方よりも北上することはなかったと思われる。冷温帯針葉樹林のBiomization法による復元率の低さは、寒冷な地方のバイオーム復元を行う上で改善の余地があると思われる。
引用文献:Gotanda et al., 2002, Quaternary Science Review, 21, 647-657
Gotanda and Yasuda, 2008, Quaternary International, 184, 84-93
五反田 2012, 日本の聖地文化(鎌田東二編)第2章, 276p,創元社
町田洋・新井房夫 2003, 新編火山灰アトラス. 336p, 東京大学出版会
Prentice et al.,1996, Climate Dynamics, 12, 185-194
安田・三好, 1998, 図説 日本列島植生史, 302p, 朝倉書店