17:15 〜 18:45
[HQR05-P05] 霞ヶ浦における過去6000年間の古環境変遷と海水準変動との関連
キーワード:霞ヶ浦、粒度、古環境、潮流、完新世
茨城県南部に位置する霞ヶ浦は,西浦,北浦,外浪逆浦からなる淡水湖であり,砂州の発達により外洋水塊と隔絶されて形成された湖である.霞ヶ浦一帯は,縄文海進による高海水準期に古鬼怒湾となり,その後鬼怒川の堆積物(Tanabe et al.,2022)などによる湾口部の閉塞(斎藤ほか,1990)などにより汽水化が進行し,現在のような霞ヶ浦の外観が形成されたとされる.しかし,これまでの霞ヶ浦の古環境復元は数千年ごとの長期的スケールでの検討が主であることに加え,特に湾奥にあたる北西部において数百年スケールで古環境を検討した例はない.そこで本研究は,霞ヶ浦(西浦)における過去約6000年間について,高い時間分解能で古環境復元を行うことを目的とした.なお,南東部で採取した2本のコア試料の詳細は山田ほか(H-QR05)で報告し,本発表ではその結果と合わせて霞ヶ浦全域での古環境変遷を考察する.
2023年6月に霞ヶ浦(西浦)の北西部においてパーカッションピストンコアラーを用いKS23-02コアを採取した.その岩相および堆積構造をCTスキャン画像により把握し,層厚1 cmごとに分取した計421試料の粒度分析を行った.同コアのコア長は422 cmであり,主にシルトにより構成され,複数枚のテフラ層を挟在する.コア深度350~225 cmは極細粒砂の薄層を頻繁に挟む泥,225~120 cmは生物擾乱が卓越する泥から構成され,コア深度77.8~73.1 cmにおいて離弁のヤマトシジミの密集層が見られた.帯磁率,含有物の顕微鏡観察などにより,霞ヶ浦のコア試料中に含まれるとされるテフラ層の特徴(斎藤ほか,1990)との対比を行った.その結果,浅間A,富士宝永など5つの広域テフラが認められた.また,コア深度375 cmから得られた二枚貝の14C年代測定を依頼し,約2800 cal yr BPの年代が得られた.
岩相および粒度分析に基づき,4つの古環境が認められた.約3500〜2500 cal yr BPには6~8 µmの泥が卓越し,砂は全く含まれないことから,閉鎖的な内湾環境が示唆される.2500〜1200 cal yr BPには粒径6~8 µmの泥に,潮流により南東部から運搬された厚さ数mmの極細粒砂が数cm間隔で繰り返し挟在されたと推察される.よって潮汐の影響を受ける内湾の環境を示唆する.1200〜600 cal yr BPには粒径8〜9 µmの泥が卓越し,わずかに細粒砂を含む.生物擾乱が発達し葉理は認められないことから,潮流の影響が減少した内湾であったと考えられる.600 cal yr BP以降は最大粒径が50 µm以下になり砂はほとんど含まれない.またヤマトシジミを含むことから,閉鎖的な汽水から淡水湖の環境が推察される.
以上の様に,2500 cal yr BP以降は極細粒砂が含まれていたのに対し,3500〜2500cal yr BPの霞ヶ浦北西部では,泥のみが堆積していた.関東周辺では,約4000~3000 cal yr BPに現在よりも2 m海面が低い弥生の小海退と呼ばれる海水準低下が知られている(田辺ほか,2016など).南東部のコアにおいてもこの時期に泥が卓越しており,霞ヶ浦(西浦)全域はこの海水準低下により湾口部が閉塞され,一次的に泥が堆積する閉鎖的環境になっていたと推察される.
2023年6月に霞ヶ浦(西浦)の北西部においてパーカッションピストンコアラーを用いKS23-02コアを採取した.その岩相および堆積構造をCTスキャン画像により把握し,層厚1 cmごとに分取した計421試料の粒度分析を行った.同コアのコア長は422 cmであり,主にシルトにより構成され,複数枚のテフラ層を挟在する.コア深度350~225 cmは極細粒砂の薄層を頻繁に挟む泥,225~120 cmは生物擾乱が卓越する泥から構成され,コア深度77.8~73.1 cmにおいて離弁のヤマトシジミの密集層が見られた.帯磁率,含有物の顕微鏡観察などにより,霞ヶ浦のコア試料中に含まれるとされるテフラ層の特徴(斎藤ほか,1990)との対比を行った.その結果,浅間A,富士宝永など5つの広域テフラが認められた.また,コア深度375 cmから得られた二枚貝の14C年代測定を依頼し,約2800 cal yr BPの年代が得られた.
岩相および粒度分析に基づき,4つの古環境が認められた.約3500〜2500 cal yr BPには6~8 µmの泥が卓越し,砂は全く含まれないことから,閉鎖的な内湾環境が示唆される.2500〜1200 cal yr BPには粒径6~8 µmの泥に,潮流により南東部から運搬された厚さ数mmの極細粒砂が数cm間隔で繰り返し挟在されたと推察される.よって潮汐の影響を受ける内湾の環境を示唆する.1200〜600 cal yr BPには粒径8〜9 µmの泥が卓越し,わずかに細粒砂を含む.生物擾乱が発達し葉理は認められないことから,潮流の影響が減少した内湾であったと考えられる.600 cal yr BP以降は最大粒径が50 µm以下になり砂はほとんど含まれない.またヤマトシジミを含むことから,閉鎖的な汽水から淡水湖の環境が推察される.
以上の様に,2500 cal yr BP以降は極細粒砂が含まれていたのに対し,3500〜2500cal yr BPの霞ヶ浦北西部では,泥のみが堆積していた.関東周辺では,約4000~3000 cal yr BPに現在よりも2 m海面が低い弥生の小海退と呼ばれる海水準低下が知られている(田辺ほか,2016など).南東部のコアにおいてもこの時期に泥が卓越しており,霞ヶ浦(西浦)全域はこの海水準低下により湾口部が閉塞され,一次的に泥が堆積する閉鎖的環境になっていたと推察される.