日本地球惑星科学連合2024年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-QR 第四紀学

[H-QR06] 地球惑星科学へのルミネッセンス・ESR年代測定の応用

2024年5月30日(木) 15:30 〜 16:45 105 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:田村 亨(産業技術総合研究所地質情報研究部門)、豊田 新(岡山理科大学古生物学・年代学研究センター)、小形 学(国立研究開発法人日本原子力研究開発機構東濃地科学センター)、座長:田村 亨(産業技術総合研究所地質情報研究部門)、豊田 新(岡山理科大学古生物学・年代学研究センター)

16:30 〜 16:45

[HQR06-05] 砂礫層に含まれるマトリクス砂を用いたルミネッセンス年代測定におけるベータ線年間線量計算の妥当性の検証

*石井 祐次1伊藤 一充1 (1.国立研究開発法人 産業技術総合研究所)

キーワード:ルミネッセンス年代測定、マトリクス砂、ベータ線年間線量、河成段丘、更新世

砂礫層によって構成される河成層や扇状地性の堆積物は山地やその周辺において一般的に見られる.砂礫層によって構成される河成層や扇状地性の堆積物は放射性炭素年代測定に適した有機物や,ルミネッセンス年代測定において通常対象とする砂層が少なく,それらの編年をおこなう際の大きな問題である.砂礫層によって構成される堆積物の特定の層準から年代値を得ることは,気候変動や海水準変動,地殻変動に対する河川の応答を明らかにするために重要である.日本では,砂礫層によって構成される河成段丘堆積物のルミネッセンス年代にもとづく隆起速度の推定が,放射性廃棄物処分における安全評価に用いられると期待される.
砂礫層によって構成される堆積物に含まれるマトリクス砂を対象とすることで,特定の層準からルミネッセンス年代値を得ることができる可能性がある.しかし,マトリクス砂を用いた年代測定においては,ベータ線の不均質性に起因する年間線量推定の不確実性の問題があり,それを評価するための実践的な手法はこれまでに提案されていない.本研究では,近年提案された,堆積物の粒度を考慮した平均ベータ線年間線量の推定モデルを,砂礫層に含まれるマトリクス砂に適用できるように改良した.このモデルを十勝平野の河成段丘堆積物に適用し,砂層の年代値と比較することで,砂礫層に含まれるマトリクス砂の年代測定の妥当性を検証した.
砂礫層に含まれる2 mm以下の粒子は堆積物全体の20~35%を占めるに過ぎないが,平均ベータ線年間線量の推定モデルによると,2 mm以下の粒子から発せられるベータ線量は全体の約70%を占めることが示された.これは,大きな粒子から発せられるベータ線の多くが粒子内部で自己吸収されるのに対し,小さな粒子から発せされるベータ線は外部へと効率的に発せられることを反映している.モデルによって計算されたベータ線年間線量は,2 mm以下の粒子のinfinite matrix dose rateから推定したベータ線年間線量に近い.十勝平野にみられる最終氷期およびMIS 6に形成された河成段丘を対象として採取したマトリクス砂の年代値は,砂層から得た年代値と整合的であった.砂礫層に含まれるマトリクス砂を対象としたルミネッセンス年代測定は,砂礫質な河成層の編年において重要な役割を果たすことが期待される.

謝辞:本研究は原子力規制委員会原子力規制庁「令和4年度原子力発電施設等安全対策委託費(廃棄物埋設における自然事象等の評価に関する研究)事業」及び「及び令和5年度原子力発電施設等安全対策委託費(廃棄物埋設における自然事象等の評価に関する研究)事業」として実施したものである。