日本地球惑星科学連合2024年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-QR 第四紀学

[H-QR06] 地球惑星科学へのルミネッセンス・ESR年代測定の応用

2024年5月30日(木) 17:15 〜 18:45 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 6ホール)

コンビーナ:田村 亨(産業技術総合研究所地質情報研究部門)、豊田 新(岡山理科大学古生物学・年代学研究センター)、小形 学(国立研究開発法人日本原子力研究開発機構東濃地科学センター)

17:15 〜 18:45

[HQR06-P01] 石英中ESR信号の露頭表面からの深さ依存性

*田中 桐葉1小形 学1塚原 柚子1西山 成哲1 (1.日本原子力研究開発機構東濃地科学センター)

キーワード:電子スピン共鳴、堆積物、走向方向深さ、石英、捕獲電子

第四紀堆積物の電子スピン共鳴(ESR)年代測定は、堆積物の最新堆積年代を直接決定できる可能性を持つ手法である[1, 2]。この方法は、ESR法によって検出される堆積物中の石英に含まれる欠陥に捕獲された電子(捕獲電子)が、侵食・運搬・堆積過程で太陽光照射によって解放され(光ブリーチ)、その後、堆積物は埋没し、捕獲電子が蓄積されることを前提とする。捕獲電子数は被曝線量に依存するため、埋没後から現在までに蓄積された捕獲電子数を測定することで、その期間の総被曝線量が得られ、その値を1年間あたりの被曝線量で除することで、堆積年代を推定することができる。埋没後、太陽光にさらされた堆積物の堆積年代は過小評価されるため、ESR年代測定に使用することは避けなければならない。そのため、露光されていないと考えられている、露頭表面から走向方向深さ5 cm以上に埋没している堆積物が慣例的に年代測定には使用されている[3]。しかし、その深度は明確に実証されているわけではなく、年代測定を実施するその都度、確認されているわけでもない。先行研究によると、光ルミネッセンス測定で検出される捕獲電子の数は、露頭表面に近いほど少なくなり、太陽光の照射時間が長いほど岩石の奥深くまでブリーチすることが報告されている[4]。したがって、露頭表層における捕獲電子に対する太陽光曝露の影響を明らかにすることは重要である。
本研究では、石川県七尾市の標高30-33mに位置する段丘堆積物から、直径4cm、長さ35cmのポリ塩化ビニル管を用いて2試料を採取した。試料の一方は、シルト質風成ローム、もう一方は、シルト-細粒海成砂である。試料の分析前処理は、赤色光下で行った。ローム・海成砂試料は、それぞれ3個と7個に切断された。その後、ふるい分け、塩酸処理、過酸化水素処理、ネオジム磁石を用いた磁気分離、ポリタングステン酸ナトリウムを用いた重液分離、フッ化水素酸処理によって、粒径73–250 µmの石英粒子を抽出した。E1'中心[5]、Al中心[6]、Ti中心[7]の捕獲電子を検出するためのESR測定を質量84–200 mgの石英粒子に対して行った。g値 g~2.001、g=2.018–1.993、g=1.913におけるE1'中心、Al中心、Ti中心のピーク強度差を、標準物質のピーク強度差で規格化した値をそれぞれの捕獲電子のESR信号強度として算出した。
 ローム試料では、E1'中心のESR信号強度は走向方向深さに関係なく一定であった。一方、深さ20 cmと30 cmのAl中心とTi中心のESR信号強度は、深さ10 cmでのESR信号強度よりも大きかった。海成砂試料では,深さ3–14 cmと33 cmのすべての捕獲電子のESR信号強度にはほとんど違いはなく、深さ20–30 cmでのESR信号強度よりも大きかった。今後は、人工光曝実験から深さに対するESR信号強度の変化を調べ、本研究結果の妥当性を予定である。

研究助成: 本研究は、経済産業省資源エネルギー庁委託事業(JPJ007597)の「令和4年度高レベル放射性廃棄物等の地層処分に関する技術開発事業(地質環境長期安定性評価技術高度化開発)」の成果の一部である。

参考文献:
[1] Yokoyama et al., 1985. Nucl. Tracks Radiat. Meas., 10, 921–928. [2] Quaegebeur and Yokoyama, 1981. Absolute dating and Isotope Analysis in Prehistory-Methods and limits (Edited by Lumley H. de and Labeyrie J.), 557–564. [3] Moreno et al., 2017. Quaternaire, 28, 161–166. [4] Ishii et al., 2022. Quat. Geo-chronol., 67, 101228. [5] Ageby et al., 2023. Radiat. Meas., 166, 106962. [6] Rudra and Fowler, 1987. Phys. Rev. B 35, 8223–8230. [7] Nuttall and Weil, 1981. Can. J. Phys., 59, 1696-1708. [8] Isoya et al., 1983. Chem. Phys., 78, 1735–1746.