日本地球惑星科学連合2024年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-RE 応用地質学・資源エネルギー利用

[H-RE12] 応用地質学の新展開

2024年5月26日(日) 17:15 〜 18:45 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 6ホール)

コンビーナ:竹下 徹(パシフィックコンサルタンツ(株)・国土基盤事業本部 顧問)、竹村 貴人(日本大学文理学部地球科学科)、太田 岳洋(山口大学大学院創成科学研究科地球科学分野)

17:15 〜 18:45

[HRE12-P05] 日本が主導できる地熱発電: 浅部超臨界地熱発電

*伊藤 久敏1 (1.財団法人電力中央研究所)

キーワード:地熱資源、超臨界地熱発電、黒部川花崗岩

日本は地熱資源大国とされるが,地熱発電量は2021年3月時点で61万kWと少なく,米国のガイザース地熱地域1ヵ所の半分程度でしかない.これを打開するために,今後,日本で大規模な地熱開発を行う方法として,NEDOにより超臨界地熱発電の開発計画が進められている.NEDOは,優先調査する有望地域として岩手県の八幡平と葛根田,秋田県湯沢南部,大分県九重の4地域を選定したようである.これらの地域は共通して,ターゲットとなる400℃以上の高温岩体(恐らく花崗岩:ここでは以下で貯留層と表現する)が地下深部に位置するので貯留層に達するまでに,2~3 kmの上載層(主に火山岩類)を掘削する必要がある.地下深部の貯留層を掘削する技術開発は必要ではあるが,同時に貯留層の評価も必要である.過去には,オーストラリアで,地下4 km以深の貯留層を開発する計画が進められたが,掘削時のトラブルのため実現には至らなかった.このようなことから,深部貯留層の開発と並行して,まずは,より実現可能性の高いと思われる地下浅部にある貯留層の評価・開発も進めるべきと思われる.日本には,恐らく世界に例を見ない地表に露出する高温の花崗岩が飛騨山脈に存在する.この花崗岩(黒部川花崗岩)は,水力発電のために掘削されたトンネルの掘削時の岩盤温度が175℃に達したとのことである.黒部川花崗岩分布域は,同花崗岩に上載していたと推定される火山岩類(爺ヶ岳火山岩類)が激しい隆起・削剥のため欠如している.従って,この花崗岩を対象にすれば,上載層を掘削する必要がなく,地下1~2 kmで貯留層に到達すると思われる.また,黒部川花崗岩は,葛根田花崗岩と同様に第四紀の花崗岩であるので,花崗岩生成後のテクトニクスにより生じたフラクチャは,第四紀よりも古い花崗岩(例えば現時点で知られている湯沢南部の花崗岩.但し,同地域に第四紀花崗岩が伏在する可能性はあると思われる.)に比べて少なく,貯留層の評価・開発を行う上でも,より容易であると思われる.原子力発電では,商業炉の前に原型炉や実証炉の研究開発が行われる.黒部川花崗岩を対象にした超臨界地熱開発は,原型炉~実証炉に近い位置付けで,超臨界地熱発電の実現に向けた要素技術の開発に大きく寄与できると思われる.

参考文献:
伊藤久敏,2013.黒部川花崗岩と涵養地熱系発電.日本地熱学会平成25年学術講演会講演要旨,A05.
伊藤久敏,2023.地熱資源と年代学: 第四紀花崗岩の意味するもの.JpGU,SCG54-01.