日本地球惑星科学連合2024年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-RE 応用地質学・資源エネルギー利用

[H-RE13] 資源地球科学

2024年5月27日(月) 17:15 〜 18:45 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 6ホール)

コンビーナ:大竹 翼(北海道大学大学院工学研究院 環境循環システム部門)、星野 美保子(国立研究開発法人産業技術総合研究所)、高橋 亮平(秋田大学大学院国際資源学研究科)、野崎 達生(国立研究開発法人 海洋研究開発機構 海洋機能利用部門 海底資源センター)


17:15 〜 18:45

[HRE13-P15] 南部フォッサマグナ地域未分化玄武岩脈の透輝石巨晶に含まれる花崗岩質メルト包有物

*天谷 宇志1、黒澤 正紀2 (1.筑波大学 地球科学、2.筑波大学 生命環境)

キーワード:花崗岩質マグマ、メルト包有物、透輝石、未分化玄武岩

島弧の熱水性金属鉱床の多くは,花崗岩質マグマ起源の熱水流体により形成されるため,その熱水の特性を左右する,花崗岩質マグマの初生的な化学的特徴の解明が鉱床形成過程の検討に重要である.しかし,地表に露出する花崗岩体の多くは,結晶分化や熱水分離等により元々の化学的特徴を失っている可能性が高く,地表花崗岩から鉱床形成に関係する初生的な情報が得にくいという課題があった.そこで,その点を克服するため,玄武岩マグマの上昇過程で捕獲される可能性がある地下深部の初生的花崗岩マグマの痕跡を,未分化玄武岩の斑晶のメルト包有物中に探索してきた.その結果,山梨県佐野川流域に分布する新第三紀に貫入した未分化な玄武岩質岩脈中のクロム透輝石巨晶に,初生的花崗岩質メルトと推定されるメルト包有物が存在することを見出し,その特徴と随伴する析出金属硫化物および貴金属粒子について予察的に報告した(天谷・黒澤2021, 2022 資源地質学会要旨).今回は,包有物中の花崗岩質メルトの化学組成,岩脈周辺の花崗岩体と鉱脈型の金属鉱床との関係について報告する.
 佐野川流域には,数㎝大のクロム透輝石巨晶を多量に含む未分化な玄武岩が一部に存在し,それは島弧型アンカラマイトに相当していた.透輝石内部には,ほぼ完全に結晶化した花崗岩質メルト包有物が含まれ,それらは主に石英・斜長石・カリ長石・角閃石の析出結晶からなり,少量の黄鉄鉱や黄銅鉱等の析出硫化物を伴っていた.硫化物には,少量のNi, Zn, Cd, Pb等の微細な硫化物が付着し,金銀化合物や白金鉱物も確認された.また,透輝石中には緑泥石・方解石を主とする別の包有物も存在したが,液体の水を含む包有物は確認されなかった.花崗岩質メルト包有物は,地下約20~10 kmで捕獲されたと推定されている.
 今回,花崗岩質メルトの平均化学組成をSEM-EDSの二次元元素マッピングによる各析出結晶の面積比と組成に基づいて推定した結果,メタアルミナスでカルクアルカリ質の花崗閃緑岩の組成に相当することが分かった.また,含水鉱物の量比に基づくと,含水量は1 wt %以下と少なかった.これらの組成は,南部フォッサマグナ地域の中程度のK2Oを含む新第三紀花崗岩の主成分組成と一致していた.また鉱床の形成に重要な金属・硫黄量も推定され,それらの濃度は日本の大規模な金属鉱床を伴う花崗岩と同等かそれ以上の濃度であった.但し,この花崗岩質マグマが鉱床を形成したとしても,含水量が低いために発生する熱水の量が少ないことが推定され,小規模な金属鉱床しか形成されない可能性がある.さらに,メルト包有物に硫化物として含まれる金属の種類と相対的な量比は,岩脈付近に分布する,新第三紀花崗岩に関連した鉱脈型鉱床から産出する金属硫化物の種類や相対的な産出量の傾向と調和的であった.このことは,未分化な玄武岩に捕獲された初生的花崗岩質メルトの化学的特徴が,周囲の鉱床の化学的特徴の検討に手がかりを与える可能性があることを示唆している.