日本地球惑星科学連合2024年大会

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[J] 口頭発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-SC 社会地球科学・社会都市システム

[H-SC07] 地球温暖化防⽌と地学(CO2地中貯留・有効利⽤、地球⼯学)

2024年5月28日(火) 09:00 〜 10:30 105 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:徂徠 正夫(国立研究開発法人産業技術総合研究所地圏資源環境研究部門)、薛 自求(公益財団法人 地球環境産業技術研究機構)、愛知 正温(東京大学大学院新領域創成科学研究科)、今野 義浩(The University of Tokyo, Japan)、座長:今野 義浩(The University of Tokyo, Japan)


10:15 〜 10:30

[HSC07-06] 泡状超臨界CO2の安定性向上に対するCNF添加効果の確認

*松本 朝陽1、小林 和弥1、村田 澄彦1 (1.京都大学)


キーワード:セルロースナノファイバー、フォーム安定剤、ピッカリングフォーム、超臨界CO2

CCSにおいて、深部帯水層に圧入されるCO2は帯水層の温度圧力条件から超臨界状態となる。超臨界CO2は水よりも密度が小さく、浮力により帯水層上部に選択的に広がることから、帯水層において水がCO2で置換されない領域が発生し、CO2貯留量を減少させる一因となっている。この問題の解決策として、超臨界CO2を泡状にして粘度を上昇させるという手法が検討されている。しかし泡(フォーム)は容易に崩壊してしまい安定性に欠ける。そこで泡の気液界面にナノサイズの固体微粒子を吸着させることで、泡の崩壊や合体、泡を形成する液膜の排液を阻害し、泡の安定性を向上する手法の適用が検討されている。固体微粒子が界面に吸着して界面を安定化する現象はピッカリング効果と呼ばれる。ピッカリング効果を呈する固体微粒子として粘土鉱物類、シリカナノ粒子、ナノセルロース類などが挙げられる。これらの固体微粒子のうち、ナノセルロース類は、植物細胞壁の主成分であるセルロースを機械的に粉砕したり、酵素や酸で処理することでナノサイズまで解繊し作られる繊維状の微粒子である。ナノセルロース類はバイオマス由来の材料であることから人体及び環境への負荷低減が期待できるという利点を有することから多様な分野において応用が進んでいる。しかしフォームの安定剤としての研究事例は未だに少なく、特にナノセルロース類の一種であるセルロースナノファイバー(CNF:Cellulose Nano-Fiber)を超臨界CO2のフォームに添加した事例は報告されていない。そこで本研究では環境に優しい安定剤としてCNFを添加した超臨界CO2フォームの安定性向上を実験的に確認した。
泡の安定性には懸濁液/溶液の粘度と気液界面での相互作用が強く影響する。そこで、懸濁液/溶液の粘度による影響を除外し固体微粒子の気液界面での相互作用に着目して評価するために、固体微粒子のCNFを添加した懸濁液と、増粘剤の1種であるNaCMC(Carboxymethyl Cellulose Sodium)を添加した溶液を既定の粘度(5,10,15,20 cP)になるように調製し、安定性評価を行った。なお、全ての懸濁液/溶液に陰イオン界面活性剤のSDS(Sodium Dodecyl Sulfate)を臨界ミセル濃度で添加した。安定性評価は、45℃、10MPaの温度圧力条件で懸濁液/溶液を10分間攪拌し泡状超臨界CO2を発生させた後、超臨界CO2フォームの崩壊、粗大化、液膜の排液に伴い、セル下部に元の半分の体積の懸濁液/溶液が溜まるまでの時間(Half-life)を計測することで評価した。
安定性評価の結果、全ての粘度において、CNFを用いた超臨界CO2フォーム(CNFフォーム)はNaCMCを用いた超臨界CO2フォーム(NaCMCフォーム)よりも長いHalf-lifeを示し、CNFの添加が泡状超臨界CO2の安定性を改善することが確認された。CNFフォームがNaCMCフォームよりも長い半減期を示す理由として、CNFが泡の超臨界CO2-液界面に吸着し、互いに絡まって粘弾性層を形成することで、泡の崩壊と粗化を抑制したことが考えられる。さらに、泡の液膜内部でのCNFの絡まりによる網目状構造の形成と、泡同士の境界にCNFが蓄積することで排液を阻害することも、CNFがフォームの安定化に寄与した要因として考えられる。
また増粘剤を添加したフォームが時間経過に伴い継続的に排液が進行した一方、CNFを添加したフォームは、せん断を取り除いた直後に急激な排液を生じ、その後ほとんど完全に排液が停止するという特徴的な排液の様子が観察された。このCNFフォームの特徴的な排液の要因として、CNFの網目状構造がせん断により破壊されCNF懸濁液の粘度が低下することで急速な排液を引き起こしたものの、その後時間の経過により、超臨界CO2-液界面および泡の液膜内部でCNFがブラウン運動により網目状構造を再形成し、懸濁液の粘度を回復させると共に、フォームを強く安定化させたと考えられる。また別の要因として、時間経過に伴い泡同士の境界にCNFが蓄積したことで排液が遅延したことも考えられる。本研究ではCNFは他の固体微粒子とは異なるアスペクト比を持ち、超臨界CO2フォームの安定化に対して特異的な挙動を持つことを明らかにした。具体的にはCNFが形成する網目状構造が起泡過程および排液過程のせん断応力の変化によって破壊と回復を行うことで、特徴的な泡の崩壊ダイナミクスや安定化メカニズムを示すことが分かった。