16:30 〜 16:45
[HTT14-05] ナローマルチビーム測深システムを活用した微地形解析による水中遺跡の判読:福島県桧原湖湖底遺跡(桧原宿跡)を例に
キーワード:磐梯山、水中遺跡、マルチビームソナー、地形図、傾斜図、桧原湖
テクトニックな沈降や突発的な自然災害に伴い海底や湖底に水没した集落の痕跡が国内外に潜在していると考えられる。しかし水深が深かったり、厚い堆積物に覆われていたりするため、水没した集落全体の位置空間情報や土地利用区分を正確に評価することは容易ではない。その解決手段の1つとして近年高解像度化が進んでいる音響調査機器を用いた地形・底質判読から評価する方法が挙げられるが、活用例は少ない。そこで本研究では、1888年磐梯山噴火に伴い形成された堰止め湖(桧原湖)に水没した旧宿場町である福島県桧原湖湖底遺跡「桧原宿跡」を対象に、水没した集落およびその周辺を対象にマルチビームソナーを用いた微地形調査を実施した。
マルチビームソナーはNORBIT Winghead i77h(ビーム数1024本)を用いた。測定に用いた周波数は400kHzである。データ処理はQPS社製後処理ソフトウェア「Qimera」を用いて、0.25mと0.15mメッシュデータを作成した。メッシュデータはカラー陰影起伏図、傾斜量図、曲率図、そして曲率と傾斜量を重ねたCS立体図に変換した。地図作成には市販のマップ作成ツール(Surfer、Golden Software社)を使用した。作成した地図と宿場町が水没する以前に作成されたとされる字切図(古地図)を比較して宿場町の街並みの復元を試みた。なお、この字切図には各土地区画の種類(宅地・畑)、長さ、幅、面積が記載されている。
傾斜量図の考察から、宅地と街道が存在していた場所の傾斜は平坦で、一方、畑地は傾斜した場所にあることが分かる。また、CS立体図では、土地の境界と思われる明瞭なリニアメント、もしくは断続的なリニアメントや突起物と考えられる点群を確認した。リニアメントは街道と平行もしくは垂直方向に伸びていた。特に桧原宿の中心部を南北に横断する参道をはさんだ西側の区画で、その特徴が明瞭に確認できた。CS立体図のリニアメントから推定した土地境界と字限図に描かれている土地区画を比較した結果、CS立体図の土地の幅と面積は、字限図の測量結果と近似した値を示した。この結果は字切図の測量結果が信頼性の高いことを示唆している。そこで、字切図の測量値をもとCS立体図で土地区画が不明瞭な場所の推定を行った。その結果、宿場町全体の特徴を再現することができたとともに、宿場町の中心部から北の米沢へ向かう街道、小道、および小川の位置を推定することができた。一方、字切図で描かれた宿場町西部を南北に流れる川を示唆する微地形はCS立体図や陰影図では確認できなかった。また、宿場町西部から桧原本村(北塩原村大字桧原字道前原)を通り会津方面へ向かう街道の一部が古地図には記されているが,CS立体図では確認できなかった。桧原宿西域の桧原湖北西は会津川と大川入川の2つの河川の合流地点にあたる。そのため、湖形成後に2つの河川から供給された河川堆積物による埋没により河川や街道の地形的な特徴が失われた可能性がある。
本研究により、高解像度のナローマルチビームを活用した微地形解析により、桧原宿跡の土地割を再現し、街並の概要を把握することができた。一部の区域については高精度に位置情報を再現できることが明らかとなった。一方、古地図と微地形との解釈の不一致については、水中発掘調査により明らかになることが期待される。
謝辞:マルチビームソナーの分析は(株)エス・イー・エイ(https://www.seanet.co.jp/)の業務協力のもと行われた。本研究はJSPS科研費 JP22H00028の助成を受けたものである。
マルチビームソナーはNORBIT Winghead i77h(ビーム数1024本)を用いた。測定に用いた周波数は400kHzである。データ処理はQPS社製後処理ソフトウェア「Qimera」を用いて、0.25mと0.15mメッシュデータを作成した。メッシュデータはカラー陰影起伏図、傾斜量図、曲率図、そして曲率と傾斜量を重ねたCS立体図に変換した。地図作成には市販のマップ作成ツール(Surfer、Golden Software社)を使用した。作成した地図と宿場町が水没する以前に作成されたとされる字切図(古地図)を比較して宿場町の街並みの復元を試みた。なお、この字切図には各土地区画の種類(宅地・畑)、長さ、幅、面積が記載されている。
傾斜量図の考察から、宅地と街道が存在していた場所の傾斜は平坦で、一方、畑地は傾斜した場所にあることが分かる。また、CS立体図では、土地の境界と思われる明瞭なリニアメント、もしくは断続的なリニアメントや突起物と考えられる点群を確認した。リニアメントは街道と平行もしくは垂直方向に伸びていた。特に桧原宿の中心部を南北に横断する参道をはさんだ西側の区画で、その特徴が明瞭に確認できた。CS立体図のリニアメントから推定した土地境界と字限図に描かれている土地区画を比較した結果、CS立体図の土地の幅と面積は、字限図の測量結果と近似した値を示した。この結果は字切図の測量結果が信頼性の高いことを示唆している。そこで、字切図の測量値をもとCS立体図で土地区画が不明瞭な場所の推定を行った。その結果、宿場町全体の特徴を再現することができたとともに、宿場町の中心部から北の米沢へ向かう街道、小道、および小川の位置を推定することができた。一方、字切図で描かれた宿場町西部を南北に流れる川を示唆する微地形はCS立体図や陰影図では確認できなかった。また、宿場町西部から桧原本村(北塩原村大字桧原字道前原)を通り会津方面へ向かう街道の一部が古地図には記されているが,CS立体図では確認できなかった。桧原宿西域の桧原湖北西は会津川と大川入川の2つの河川の合流地点にあたる。そのため、湖形成後に2つの河川から供給された河川堆積物による埋没により河川や街道の地形的な特徴が失われた可能性がある。
本研究により、高解像度のナローマルチビームを活用した微地形解析により、桧原宿跡の土地割を再現し、街並の概要を把握することができた。一部の区域については高精度に位置情報を再現できることが明らかとなった。一方、古地図と微地形との解釈の不一致については、水中発掘調査により明らかになることが期待される。
謝辞:マルチビームソナーの分析は(株)エス・イー・エイ(https://www.seanet.co.jp/)の業務協力のもと行われた。本研究はJSPS科研費 JP22H00028の助成を受けたものである。