日本地球惑星科学連合2024年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-TT 計測技術・研究手法

[H-TT17] 地理情報システムと地図・空間表現

2024年5月29日(水) 13:45 〜 15:00 304 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:小荒井 衛(茨城大学理学部理学科地球環境科学コース)、田中 一成(大阪工業大学工学部都市デザイン工学科)、中村 和彦(東京大学)、座長:小荒井 衛(茨城大学理学部理学科地球環境科学コース)、田中 一成(大阪工業大学工学部都市デザイン工学科)、中村 和彦(東京大学)

14:00 〜 14:15

[HTT17-02] 保健指標を活用した健康リスク評価:障害調整生存年(DALY)と疾病地図による地理的疾病負荷の分析

★招待講演

*荒堀 智彦1 (1.日本大学文理学部地理学科)

キーワード:保健指標、疾病負荷、障害調整生存年(DALY)、疾病地図

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行は,健康に対するリスクを私たちの生活に身近なものにし,生物学的,社会経済的脆弱性に関する議論の大きなきっかけとなった.地理学は,伝統的に地理的事象の分布とそのプロセスを解明することに重きを置いてきた.環境と人間の関わりの視点で,健康リスクの生態的分析と評価を行うことが健康危機管理において求められている.本研究では,健康リスク評価に活用される指標について概観し,包括的健康指標の一つである障害調整生存年(DALY)を用いて日本における地理的な疾病負荷を明らかにする.
経済的先進国においては,20世紀以降の疫学的転換により,感染性疾患から慢性疾患へ疾病構造が変化した.それに伴い,保健医療分野における研究は,Well-beingと生活の質(QOL)向上への関心の高まりから,健康の維持,感染制御,健康危機管理の視点へ移行しつつある.加えて,疾病構造の変化に対応できる健康指標の開発が求められており,世界保健機関(WHO)と世界銀行は,健康・不健康の状態を加味した健康指標として「疾病負荷」を開発した.その中で,障害調整生存年(DALY)は,単純な死亡率や罹患率だけでなく,病的状態,障害,早死の年数も含めた総合指標として活用されている.DALYは,様々な疾病や外傷及びそれに関連した危険因子による健康損失を包括的に捉え,集団を対象とした政策決定に活用でき,障害共存年数(YLD)と損失余命年数(YLL)の和として計算する.
分析の結果,日本は他の先進7か国(G7)と比較して,1990年から2019年までの間,YLDの増加によって疾病負荷が緩やかに上昇していることが明らかとなった.傷病群別のDALYをみると,新生物による疾病負荷は1位で,順位の変動はないが,神経疾患,糖尿病および腎臓病,感覚器疾患のDALYが増加しており,YLD増加の理由と考えられる.都道府県別のDALY率の空間分布および集積性は,都市部は疾病負荷が少ないクラスター,地方は疾病負荷の大きいクラスターが形成されていることが明らかとなった.
DALYは,包括的な健康指標として保健医療分野で使用されているが,多くの研究は非空間的視点で行われている.DALYの空間分布から集積性の評価を行うことで,時間的な指標に空間的視点を加味することができる.DALYモデルへの地理的変数の追加,空間スケールの精緻化などを行うことで,地域特性に応じたQOL,フレイル問題,医療経済の生態的評価が可能となると考えられる.