日本地球惑星科学連合2024年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-AG 応用地球科学

[M-AG33] 原爆による「黒い雨」領域の推定に関する基礎的研究

2024年5月31日(金) 13:45 〜 14:45 201A (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:五十嵐 康人(京都大学複合原子力科学研究所)、遠藤 暁(広島大学大学院先進理工系科学研究科)、横山 須美(長崎大学)、石川 裕彦(京都大学複合原子力科学研究所)、座長:五十嵐 康人(京都大学複合原子力科学研究所)、遠藤 暁(広島大学大学院先進理工系科学研究科)、横山 須美(長崎大学)

13:45 〜 14:00

[MAG33-01] 広島・長崎への原爆による「黒い雨」領域推定の基礎的研究

*五十嵐 康人1、気象土壌 WG (1.京都大学複合原子力科学研究所)

キーワード:原爆による「黒い雨」、放射性降下物、モデル計算、土壌調査、セシウム-137、過剰Pb-210

【はじめに】 1945年の広島・長崎への原爆投下による放射性降下物の沈着地域、いわゆる「黒い雨」の正確な推定に向け、2021年1月から2023年度まで実施中の調査研究の概要を紹介する。調査研究は、(1)シミュレーションモデルによる領域再現計算と(2)その検証データを得るための土壌調査との2本柱で進められている。本発表はその概要の紹介である。
【方法】 原子爆弾炸裂時の気象状況やその後の放射性物質の拡散状況、大規模な火災が輸送・拡散に与える影響等を考慮に入れたモデルによる放射性物質の沈着状況再現のため、(1)気象シミュレーションモデルを以下のように構築し一連の作業を行った。
1)爆発再現計算取り組み:爆発雲での爆弾由来物質の情報を気象モデルに与えるため、爆発のシミュレーション技術を用いて、市販のComputed Fluid Dynamicsモデルで、爆発後0.1秒程度から爆発雲の形成までの再現計算を実施した。
2)気象モデルによる雲形成・降雨再現計算: 計算を複数のプロセスに分割して実施し、原子雲の再現とその時間発展に関する計算の個別の実施可能性について検討、広島の事例につき本格的な計算を実施した。また、モデル計算の不確実性の評価にも留意して検討を行った。気象データとしては、米国海洋気象省(NOAA)が作成した20世紀再解析データ(20CRv3)のアンサンブル平均データを選択した。計算領は、朝鮮半島を含む領域(3600 m格子)> 西日本(1200 m格子)> 広島周辺(400 m格子)と云う三重の入れ子構造をした計算領域を採用した。最後に気象モデルの中に、爆発雲・街区火災・衝撃塵由来の物質を導入し、沈着計算を実施した。
次に(2)モデル結果の検証データ入手を目的に土壌調査を実施した。すなわち、放射性物質を含む降水現象や沈着があったと推定される地域を含む広島の広範な領域(5 km格子で約110格子)で表土試料を採取し、放射性物質や微粒子状炭素(微粒炭)等の分析に供し、放射性降下物の拡散状況を調査した。調査では、長崎市での既存調査および、森林土壌の流出に関する研究例に着目し、森林での採取手法(スクレーパー・プレート法)を採用した。
前者の堆積物試料では底質中の層序に保存された137Cs、241Am、微粒炭、Cu等重金属の濃度ピークの共通した増大から長崎原爆のクローズイン・フォールアウト(CiF)としての痕跡確認がなされている。これらは「黒い雨」沈着の証拠-核爆発に由来する①137Cs等の放射性物質、②熱線照射による街区火災由来の微粒炭が、互いに混合しながら共通したプロセスで輸送され、おそらく、③衝撃波で地表から舞い上がった衝撃塵-放射化物とも一緒に降水過程と乾性過程で地表面へ沈着した証拠と考えられる。後者の土壌未かく乱地点の森林環境中の土壌柱では、グローバル・フォールアウト(GF)由来137Csと大気由来の過剰210Pbがきれいに成層して残留していることが示されている。このような結果が広島・長崎の未かく乱の表土でも期待できると考え、検討・調査を実施した。概要は講演で述べるが、個々の項目に関する詳細は、個別の講演で説明される。

謝辞:本調査研究は厚生労働省からの受託により進められた。記して感謝します。