16:30 〜 16:45
[MAG33-09] 広島原爆後の街区火災由来のエアロゾルが降雨分布に与える影響について
キーワード:エアロゾル、降水システム、領域モデル、大気化学
大気中を浮遊するエアロゾルはそれ自体が太陽放射を反射・吸収するだけでなく、雲凝結核となって雲の生成・特性等が変調し、降水過程に影響を及ぼす。またエアロゾルの一種である黒色炭素粒子は、太陽放射を吸収し周囲の大気を加熱することにより、大気温度の鉛直分布、ひいては大気安定度を変化させ、結果として雲生成を変調させる可能性がある。これらの過程は気候変動に大きな影響を及ぼしうるものとして近年の気候モデルに取り入れられつつあるが、街区火災のような短期的に高濃度のエアロゾルが排出された状況下においても周辺の気象場への大きな影響が考えられる。
このため、本研究では街区火災由来のエアロゾルと雲・降水過程との相互作用がもたらす影響評価を行った。街区火災の設定条件および火災煙由来の物質のモデルへの組み込みについては先行研究および近年の森林火災に関する観測的研究を元に設定した。加えて、側面境界および初期値として与える広域スケールの気象場の不確実性がダウンスケーリング計算時に広島周辺の気象場に与える影響についても評価するため、欧州中期予報センター(ECMWF) による再解析データERA5 (5th generation ECMWF Reanalysis)のEDA(ensembles of data assimilations) 10メンバでのアンサンブル実験を行なった。
街区火災由来のエアロゾルの相互作用が与える影響について評価するため、「街区火災がなかった場合」、「街区火災由来エアロゾルの相互作用を考慮した場合」と「街区火災由来エアロゾルは考慮するが、相互作用を考慮しなかった場合」など火災の発生状況およびエアロゾルの取り扱いを変えた実験シナリオを設定し、各々10メンバの異なる気象場を用いたアンサンブル計算を行った。弘前大グループによりデジタル化された広島気象台での地上気象要素の観測値との比較を行ったところ、気温および風向について概ね良い再現性を示していることが確認された。気温については火災が最も活発であった12時ごろに過大評価傾向を示していたが、気象台のあった江波山のふもと、江波地区でも火災が報告されていることから周辺域での火災の影響を受けたものと考えられる。また風向については原爆投下前、午前8時頃まではメンバ間の差異が大きかったが、街区火災発生後は強い上昇流が生じている市街中心部への吹き込みが卓越し、全てのメンバが概ね北向きの風を示していた。このことから、地表付近の風向の再現性向上のためには広域気象場よりも街区火災の時空間分布の信頼性向上が重要であることが示唆された。
また降雨分布については、街区火災がなかった場合には広島市周辺には降雨が見られなかったものの、相互作用を考慮しない火災ありの事例では火災がおおよそ鎮火した8月6日18時までに爆心地近辺で最大200±40mmの積算雨量があったものと推定された。またメンバ間の差異について調べたところ、爆心地の西側での降水量に比較的に差異が大きく、下部自由対流圏での風向の不確定性が当該域での降水量分布に影響を与えたものと考えられる。また「相互作用あり」の事例では「相互作用なし」の事例と比較して爆心地近傍での降水量が100mm以上減少する一方で、その周辺域で広域的に最大5mm程度の増加が見られた。これは、エアロゾルの準直接効果により爆心地周辺の火災域では大気加熱が促進され、境界層高度が2.7±0.4kmから3.8±0.4kmと1km近く上昇するとともに地表付近での気温が5±1.2度、高度8-9kmの上部対流圏での気温が2±1度程度上昇していたことから、上昇流の強化と飽和蒸気圧の増加が生じ、爆心地近傍で降雨が生じにくくなったことも要因であると考えられる。爆心地のごく近傍では降雨が見られず、その周辺で馬蹄形に降雨域が広がる構造については増田(1989)などでも指摘されており、エアロゾルの影響がとくに火災域近傍での「黒い雨」分布推定にとって重要であることが示唆された。
このため、本研究では街区火災由来のエアロゾルと雲・降水過程との相互作用がもたらす影響評価を行った。街区火災の設定条件および火災煙由来の物質のモデルへの組み込みについては先行研究および近年の森林火災に関する観測的研究を元に設定した。加えて、側面境界および初期値として与える広域スケールの気象場の不確実性がダウンスケーリング計算時に広島周辺の気象場に与える影響についても評価するため、欧州中期予報センター(ECMWF) による再解析データERA5 (5th generation ECMWF Reanalysis)のEDA(ensembles of data assimilations) 10メンバでのアンサンブル実験を行なった。
街区火災由来のエアロゾルの相互作用が与える影響について評価するため、「街区火災がなかった場合」、「街区火災由来エアロゾルの相互作用を考慮した場合」と「街区火災由来エアロゾルは考慮するが、相互作用を考慮しなかった場合」など火災の発生状況およびエアロゾルの取り扱いを変えた実験シナリオを設定し、各々10メンバの異なる気象場を用いたアンサンブル計算を行った。弘前大グループによりデジタル化された広島気象台での地上気象要素の観測値との比較を行ったところ、気温および風向について概ね良い再現性を示していることが確認された。気温については火災が最も活発であった12時ごろに過大評価傾向を示していたが、気象台のあった江波山のふもと、江波地区でも火災が報告されていることから周辺域での火災の影響を受けたものと考えられる。また風向については原爆投下前、午前8時頃まではメンバ間の差異が大きかったが、街区火災発生後は強い上昇流が生じている市街中心部への吹き込みが卓越し、全てのメンバが概ね北向きの風を示していた。このことから、地表付近の風向の再現性向上のためには広域気象場よりも街区火災の時空間分布の信頼性向上が重要であることが示唆された。
また降雨分布については、街区火災がなかった場合には広島市周辺には降雨が見られなかったものの、相互作用を考慮しない火災ありの事例では火災がおおよそ鎮火した8月6日18時までに爆心地近辺で最大200±40mmの積算雨量があったものと推定された。またメンバ間の差異について調べたところ、爆心地の西側での降水量に比較的に差異が大きく、下部自由対流圏での風向の不確定性が当該域での降水量分布に影響を与えたものと考えられる。また「相互作用あり」の事例では「相互作用なし」の事例と比較して爆心地近傍での降水量が100mm以上減少する一方で、その周辺域で広域的に最大5mm程度の増加が見られた。これは、エアロゾルの準直接効果により爆心地周辺の火災域では大気加熱が促進され、境界層高度が2.7±0.4kmから3.8±0.4kmと1km近く上昇するとともに地表付近での気温が5±1.2度、高度8-9kmの上部対流圏での気温が2±1度程度上昇していたことから、上昇流の強化と飽和蒸気圧の増加が生じ、爆心地近傍で降雨が生じにくくなったことも要因であると考えられる。爆心地のごく近傍では降雨が見られず、その周辺で馬蹄形に降雨域が広がる構造については増田(1989)などでも指摘されており、エアロゾルの影響がとくに火災域近傍での「黒い雨」分布推定にとって重要であることが示唆された。