17:15 〜 18:45
[MAG33-P01] 元宇品海岸海砂から抽出した球状溶融粒子分析
キーワード:黒い雨、熔融粒子、元素分析
2020年度末から,厚生労働省の受託研究において,気象シミュレーションと黒い雨降雨域を含む5 kmメッシュの100地点で土壌採取が進められている.土壌分析では、採取した土壌中の210Pbの深度分布を用いて,攪乱されていない土壌試料を同定し,137Csの深度分布に微粒炭と溶融粒子の情報を組み合わせることで,原爆由来の降下物を決定することを目的としている.溶融粒子は,福島第一原子力発電所の事故でも観察されており,爆発を伴う高温下で生成されるため,原爆時にも生成されていると考えられる.一方,2019年にWannier 等が発表した論文では,広島県元宇品海岸の砂に高温起源(約1800℃以上) の溶融粒子が約3000トン存在すると報告されており,起源は1945年8月6日の広島原子爆弾に由来するのが妥当であろうと議論されている1).この溶融粒子は,土壌分析で目指していた放射性溶融粒子と同一のものである可能性があり,Wannierの溶融粒子が原子爆弾に由来するものと確認できれば,採取土壌分析に大きく寄与すると期待される.
2021年度に広島県元宇品海岸の海砂を採取し,球状溶融粒子の抽出を実施し,5.86 gの球状溶融粒子を得ている.この試料を用いて,Ge検出器による測定で,137Cs濃度,ウラン濃度およびトリウム濃度を定量した.その結果は,137Cs濃度は1.3 ± 0.5 mBq g−1と,極微量であり溶融粒子原爆由来とするには濃度が低すぎた.また,ウラン濃度およびトリウム濃度は,それぞれ8.67 ppmと20.06 ppmが得られ,広島市内の太田川河川敷の濃度と同程度かやや高い値であった.この結果は,球状溶融粒子が市内の土壌起源と考えられる可能性を示していた.しかしながら,Ge測定で推定した235U/238U比は,0.00673± 0.00503と天然の235U/238U比と誤差の範囲で矛盾ない値であった.これらの結果を考えると,球状溶融粒子は広島原爆由来と結論するには不十分であった.
2022年度は、5.86 gの球状溶融粒子を用いて,誘導結合プラズマ質量分析法(ICP-MS)による微量元素分析を行い,球状溶融粒子が広島原爆由来と考えることができるかについて検討した.その結果、黄色と銀色の熔融粒子に235U/238U比に同位体異常が検出され、原爆由来である可能性に期待が高まった。しかしながら、この測定は1回きりの測定結果であったことと、誤差が大きかったことから、確認の測定が必要であると考えられた。この確認を目的に、京都大学複合研のThermal Ionization Mass Spectrometry (TIMS)による確認と量研機構(QST)のMicro-PIXE分析による確認測定を実施した。本発表では、これまでに実施した熔融粒子の抽出からTIMS分析・Micro-PIXE分析の結果までを紹介する。
2021年度に広島県元宇品海岸の海砂を採取し,球状溶融粒子の抽出を実施し,5.86 gの球状溶融粒子を得ている.この試料を用いて,Ge検出器による測定で,137Cs濃度,ウラン濃度およびトリウム濃度を定量した.その結果は,137Cs濃度は1.3 ± 0.5 mBq g−1と,極微量であり溶融粒子原爆由来とするには濃度が低すぎた.また,ウラン濃度およびトリウム濃度は,それぞれ8.67 ppmと20.06 ppmが得られ,広島市内の太田川河川敷の濃度と同程度かやや高い値であった.この結果は,球状溶融粒子が市内の土壌起源と考えられる可能性を示していた.しかしながら,Ge測定で推定した235U/238U比は,0.00673± 0.00503と天然の235U/238U比と誤差の範囲で矛盾ない値であった.これらの結果を考えると,球状溶融粒子は広島原爆由来と結論するには不十分であった.
2022年度は、5.86 gの球状溶融粒子を用いて,誘導結合プラズマ質量分析法(ICP-MS)による微量元素分析を行い,球状溶融粒子が広島原爆由来と考えることができるかについて検討した.その結果、黄色と銀色の熔融粒子に235U/238U比に同位体異常が検出され、原爆由来である可能性に期待が高まった。しかしながら、この測定は1回きりの測定結果であったことと、誤差が大きかったことから、確認の測定が必要であると考えられた。この確認を目的に、京都大学複合研のThermal Ionization Mass Spectrometry (TIMS)による確認と量研機構(QST)のMicro-PIXE分析による確認測定を実施した。本発表では、これまでに実施した熔融粒子の抽出からTIMS分析・Micro-PIXE分析の結果までを紹介する。