17:15 〜 18:45
[MAG33-P02] 広島原爆降下物としてのウラン含有粒子の探索
キーワード:原爆降下物、ウラン含有粒子
【はじめに】1945年に広島に投下された原子爆弾の爆発による放射線被ばくの影響は、爆心近傍においては原爆が炸裂した直後に放出された中性子線とガンマ線とからなる初期放射線が主であり、その線量は2002年線量推定方式(DS02: Dosimetry System 2002)により精緻に検証されている。また、爆心から離れた場所へも影響が及び、かつ長期的な影響も考えられる残留放射線の要因のひとつである原爆降下物については、原爆投下の直後から拡散状況について様々な調査が行われている。広島での原爆降下物には235Uの核分裂で生成した放射性同位体、ウランを含む爆弾自体の構造物、火災による煤や地表面で生成した放射化物のうち爆風の吹き戻しによって上空へと移行した物質が含まれている。広島に投下された原子爆弾にはおよそ64 kgの濃縮ウランが搭載されており、そのうちおよそ50 kgが核分裂性のウランである235Uであったとされている。しかし核分裂反応の連鎖により爆発に寄与した235Uの量はわずか0.8kgほどであったと見積もられており、つまり約49 kgの235Uは核分裂を起こすことなく環境中に拡散したことになる。そこで、我々はウランを含んだ原爆降下物に着目し、広島周辺での探索を試みた。
【方法】爆弾の炸裂直後に生成した火球は高温高圧の状態にあり、核分裂を起こさなかった235Uおよび原爆の構造材である鉄やタングステン、核分裂生成物はプラズマ状態にあったが、温度の低下とともに凝縮し液体の状態を経て固体の微粒子へと変化、もしくは大気中のエアロゾル粒子に付着し拡散したと考えられる。核事象を起因とした放射性物質の環境中への拡散の事例として東京電力福島第一原子力発電所の事故があるが、事故後の環境試料の調査によって、放射性セシウムを高濃度で含み、直径が数μmの球形をした水に不溶な微粒子が発見された。この微粒子はCsMP(Cesium-rich microparticle)と呼ばれ、ウランを含んだCsMPが存在することも報告されている。
我々は広島の原爆の爆発においてCsMPに類似した、ウランを高濃度で含んだ不溶性の粒子が生成したと考え、広島周辺で採取した土壌試料を対象に固体飛跡検出器を用いて以下の手順にてウラン含有粒子が存在するかどうかを調査した。1) SPT(ポリタングステン酸ナトリウム)重液を用いて土壌粒子のうち高比重の粒子を分離しフィルタに捕集する。2) 高比重粒子を捕集したフィルタを固体飛跡検出器(バリオトラック)に密着させ、研究用原子炉KURの黒鉛設備圧気輸送管照射設備(TC-Pn)を用いて中性子照射を行う。3) フィルタを分離した固体飛跡検出器を70℃に加熱した7 Mの水酸化ナトリウム溶液に30分浸漬しエッチングする。4) 光学顕微鏡で固体飛跡検出器表面に生成した核分裂生成物による飛跡を観察し、飛跡が集中している場所をもとにフィルタ上のウラン粒子の位置を特定する。5) フィルタ上の特定された位置をSEM/EDX装置を用いて観察し、ウラン粒子を特定し元素分析を行う。
【結果】エッチング後の固体飛跡検出器には、核分裂反応により生じた飛跡の集合体(クラスター)が複数観測された。これらのクラスターを生成した粒子をSEM/EDXにより特定し元素組成分析を行った結果、ウランの含有量が数%から10%程度となる粒子が存在し、平均的な土壌に含まれるウラン含有量と比較すると明確に高濃度であることがわかった。一方で、ウラン以外の構成元素は希土類元素などの天然由来と推測される元素であったため、これらの粒子はウランを含んだ岩石中のウランが濃集した部位を起源とする粒子であると結論した。
上記のとおり、今回対象とした土壌試料からは原爆を由来とするウラン含有粒子を見つけ出すことはできなかった。しかし、数%の濃度でウランを含有する粒子を土壌中から抽出し分析を行う手法として、重液分離法と固体飛跡検出器を用いた手法が有効であることが実証された。今後は広島の他の地点で採取した土壌試料についても本手法による分析を行い、原爆降下物としてのウラン含有粒子の生成の有無を明確にし、原爆の火球生成から原爆降下物の生成に至るまでの物理的、化学的プロセスの検証に寄与したいと考える。
【方法】爆弾の炸裂直後に生成した火球は高温高圧の状態にあり、核分裂を起こさなかった235Uおよび原爆の構造材である鉄やタングステン、核分裂生成物はプラズマ状態にあったが、温度の低下とともに凝縮し液体の状態を経て固体の微粒子へと変化、もしくは大気中のエアロゾル粒子に付着し拡散したと考えられる。核事象を起因とした放射性物質の環境中への拡散の事例として東京電力福島第一原子力発電所の事故があるが、事故後の環境試料の調査によって、放射性セシウムを高濃度で含み、直径が数μmの球形をした水に不溶な微粒子が発見された。この微粒子はCsMP(Cesium-rich microparticle)と呼ばれ、ウランを含んだCsMPが存在することも報告されている。
我々は広島の原爆の爆発においてCsMPに類似した、ウランを高濃度で含んだ不溶性の粒子が生成したと考え、広島周辺で採取した土壌試料を対象に固体飛跡検出器を用いて以下の手順にてウラン含有粒子が存在するかどうかを調査した。1) SPT(ポリタングステン酸ナトリウム)重液を用いて土壌粒子のうち高比重の粒子を分離しフィルタに捕集する。2) 高比重粒子を捕集したフィルタを固体飛跡検出器(バリオトラック)に密着させ、研究用原子炉KURの黒鉛設備圧気輸送管照射設備(TC-Pn)を用いて中性子照射を行う。3) フィルタを分離した固体飛跡検出器を70℃に加熱した7 Mの水酸化ナトリウム溶液に30分浸漬しエッチングする。4) 光学顕微鏡で固体飛跡検出器表面に生成した核分裂生成物による飛跡を観察し、飛跡が集中している場所をもとにフィルタ上のウラン粒子の位置を特定する。5) フィルタ上の特定された位置をSEM/EDX装置を用いて観察し、ウラン粒子を特定し元素分析を行う。
【結果】エッチング後の固体飛跡検出器には、核分裂反応により生じた飛跡の集合体(クラスター)が複数観測された。これらのクラスターを生成した粒子をSEM/EDXにより特定し元素組成分析を行った結果、ウランの含有量が数%から10%程度となる粒子が存在し、平均的な土壌に含まれるウラン含有量と比較すると明確に高濃度であることがわかった。一方で、ウラン以外の構成元素は希土類元素などの天然由来と推測される元素であったため、これらの粒子はウランを含んだ岩石中のウランが濃集した部位を起源とする粒子であると結論した。
上記のとおり、今回対象とした土壌試料からは原爆を由来とするウラン含有粒子を見つけ出すことはできなかった。しかし、数%の濃度でウランを含有する粒子を土壌中から抽出し分析を行う手法として、重液分離法と固体飛跡検出器を用いた手法が有効であることが実証された。今後は広島の他の地点で採取した土壌試料についても本手法による分析を行い、原爆降下物としてのウラン含有粒子の生成の有無を明確にし、原爆の火球生成から原爆降下物の生成に至るまでの物理的、化学的プロセスの検証に寄与したいと考える。