日本地球惑星科学連合2024年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-AG 応用地球科学

[M-AG33] 原爆による「黒い雨」領域の推定に関する基礎的研究

2024年5月31日(金) 17:15 〜 18:45 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 6ホール)

コンビーナ:五十嵐 康人(京都大学複合原子力科学研究所)、遠藤 暁(広島大学大学院先進理工系科学研究科)、横山 須美(長崎大学)、石川 裕彦(京都大学複合原子力科学研究所)

17:15 〜 18:45

[MAG33-P08] 土壌中における水銀の鉛直分布特性

*池上 麻衣子1、福谷 哲1五十嵐 康人1 (1.京都大学複合原子力科学研究所)

キーワード:水銀、鉛直分布、土壌特性

【はじめに】土壌中の重金属は様々な形態で存在し、形態によってその挙動が異なる。水銀は大気中への放出が容易な重金属であり、自然由来あるいは人為的要因によって大気中に放出された水銀は、降雨などによって地表に沈着するものもある。土壌は粘土鉱物や有機物などで構成されており、水銀などの重金属は土壌中の粘土鉱物や有機物に吸着されやすいが、土壌特性の違いにより、その移動性は異なると考えられる。自然環境中の水銀の分布や動態に関する研究は国外でも主要な課題として位置づけられており、本研究では、大気から土壌に沈着した水銀の動態を明らかにするために、深さ方向における土壌中水銀濃度の測定を行い、鉛直分布を求めた。
【方法】広島で採取された土壌のうち、過去においてかく乱されていないことが判明している土壌を用いて、表層から深さ30cmまでの1cmごとに採取された土壌中の水銀濃度の測定を行った。水銀濃度の測定には、加熱気化水銀測定装置(日本インスツルメンツ株式会社)を用いた。
【結果】土壌中の水銀濃度は表層0-10cmでピークを示し、深い層で小さい値となる地点が多く見られた。土壌中の水銀は、土壌によって保持され、土壌に吸着された水銀は、水銀塩化物、有機物結合水銀、硫化水銀に経年変化し、降雨などでは溶脱しない安定な残留水銀として存在していると推測されている1)。そのため、下層よりも上層に集積する傾向が見られるが、本研究でも同様の結果が得られた。
土壌中の水銀のバックグラウンド値は、原野または人為的水銀汚染のない農耕地における土壌中の水銀全含有量で代表されると言われており、人為的汚染を受けていない土壌における地球化学的バックグラウンドレベルはおよそ0.03mg/kgが妥当と考えられている2)。土壌中の水銀の起源は、分析値を正規確率プロットをすることによって、(A)土壌母材に依存する範囲、(B)自然界の循環による増加を示す範囲、(C)人為的な汚染レベル、の3部分に分けて解析することができ3)、本研究でも測定結果を用いて解析した結果、自然由来によるもの、人為的な汚染など、起源を推定することができた。
深さ0-10cmでピークが見られる地点が多かったが、深くなるにつれて土壌中水銀濃度が大きくなる地点も見られた。下層の方が水銀濃度が高い場合、降下浸透性が高く、土壌中の有機物が少ないと考えられている4)ため、土壌中の有機物濃度を測定した結果、他の地点よりも表層の有機物量が少ないことがわかり、土壌特性により、挙動が異なることが明らかになった。
また、Cs-137の鉛直分布との比較を行うと、濃度の極大を示す深さの位置が異なり、鉛直分布も異なる傾向を示した。これはCs-137と水銀では土壌に付加された由来が異なるためと考えられるが、元素の化学形態によって、鉛直方向の移動速度など、その挙動が異なる可能性も考えられる。
以上より、大気から沈着した水銀は上層で集積されているが、土壌中の有機物量が少ない場合、下層の方が濃度が大きくなるなど、土壌特性によって挙動が異なることがわかった。
【参考文献】1)中川ほか:都市環境における土壌中の残留水銀の挙動,安全工学,Vol.39,No.1,p.12-18,2000.
2)島田:自然由来重金属等による地下水・土壌汚染問題の本質:水銀,応用地質技術年報,Vol.30,p.33-61,2011.
3)中川ほか:水田土壌における残留農薬水銀の動態,日本化学会誌,Vol.1991,No.5,p.470-477,1991.
4) 後藤:土壌環境と水銀,日本土壌肥料学雑誌,Vol.53,No.6,p.550-558,1982.