日本地球惑星科学連合2024年大会

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[J] 口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-AG 応用地球科学

[M-AG34] ラジオアイソトープ移行:福島原発事故環境動態研究の新展開

2024年5月31日(金) 10:45 〜 12:00 303 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:津旨 大輔(筑波大学)、高橋 嘉夫(東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻)、桐島 陽(東北大学)、加藤 弘亮(筑波大学アイソトープ環境動態研究センター)、座長:津旨 大輔(筑波大学)、高橋 嘉夫(東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻)、桐島 陽(東北大学)、加藤 弘亮(筑波大学アイソトープ環境動態研究センター)

11:45 〜 12:00

[MAG34-05] ウランスペシエーション研究の最前線:先端X線分光法による環境中の微量ウランに対する化学種分析

*蓬田 匠1,2高橋 嘉夫1 (1.東京大学、2.日本原子力研究開発機構)

キーワード:超伝導転移端センサー、高エネルギー分解能蛍光検出-X線吸収端近傍構造分光法、ウラン、黒雲母

【緒言】 原子力発電の燃料として用いられるウラン(U)は、その資源としての有用性や化学的な毒性から、環境中での移行挙動の把握が重要である。Uは化学種により環境中での移行挙動が異なり、化学種の把握が環境挙動の解明に重要な役割を果たす。X線分光法は、高感度かつ元素選択的な測定が可能であるため、微量の環境中のUの化学種を調べるツールとして用いられてきた。ただし、多種多様な元素が含まれる環境試料においては、試料中に含まれるRbなどの測定妨害により環境試料中の微量のウランの化学種同定(スペシエーション)が困難な場合があった。測定妨害の存在下で、精密に化学種を調べるための分析手法は、福島第一原子力発電所事故由来のアクチノイドの環境動態研究のみならず、放射性廃棄物の地層処分研究などの幅広い分野に展開する上で重要なツールである。本研究では、我々のグループで近年環境試料への適用を進めている、(1)高エネルギー分解能蛍光検出-X線吸収端近傍構造分光法(HERFD-XANES)や、(2)超伝導転移端検出器(TES)のX線分光・検出器としての利用など、先端X線分光法の利用によって新たに可能になった環境試料中のUスペシエーション研究について報告する。
【実験】
(1) HERFD-XANESの実験はSPring-8 BL39XUにおいて行った。試料は、UO2、FeUO4、UO2(NO3)2(H2O)6のU標準試料の他、U鉱床のボーリングコア試料より採取された黒雲母を用いた。XANES測定に従来用いられている半導体検出器(SDD)による蛍光XANES測定と、X線発光分光器を用いたHERFD-XANES測定を行った。
(2) TESをX線分光・検出器に用いる実験は、SPring-8 BL37XUにて行った。SDDとTESを用いた場合の硬X線領域のエネルギー分解能の比較を行うため、NIST610のガラス標準を試料に用いた。実際の環境試料として、ウラン鉱床のボーリングコア試料より採取した黒雲母を用いた。黒雲母薄片試料は、黒雲母を樹脂埋め後、ラッピングペーパーを用いて両面を研磨し、厚さ約100 μmの薄片として調製した。SPring-8 BL37XUにおいて、ビームサイズ約1 μmのマイクロビームX線を用いたμ-XRF-XANES測定を行った。SDDとTESを検出器に用い、入射エネルギー17.2 keVにおいて試料各部位での13.612keVのU Lα線と13.395keVのRb Kα線の蛍光X線強度を取得して、黒雲母に含まれているUとRbの分布を調べた。
【結果と考察】
(1) HERFD-XANESによるUのスペシエーション研究
まず、Uの化学種分析におけるHERFD-XANESの有用性を確かめるため、U(IV)としてUO2、U(V)としてFeUO4、U(VI)としてUO2(NO3)2(H2O)6の試料を用い、従来用いられている半導体検出器を用いたXANESスペクトルと、HERFD-XANESスペクトルを比較した。通常の半導体検出器を用いた測定では、いずれの化合物もX線吸収ピークが1つであったが、X線発光分光器を用いた測定では、FeUO4についてピーク分裂が見られた。これは、高いエネルギー分解能(約2eV)において蛍光X線を分光して測定したことにより、本来の電子状態を反映したXANESスペクトルが得られたためと考えられる。HERFD-XANESスペクトルを元に、実環境試料中の黒雲母に含まれるUの化学種を調べたところ、U(V)としては存在せず、U(IV)とU(VI)が共存していると考えられた。
(2) TES-μ-XRF-XANESによるUのスペシエーション研究
まず、NIST610のガラス標準を用いて、UのLα線が存在する14keV付近において、SDDとTESのエネルギー分解能を比較した。半導体検出器のエネルギー分解能では、XRFスペクトルでU Lα線とRb Kα線を分離することは困難であるが、TESを用いると、U Lα線とRb Kα線を完全にピーク分離して測定することが可能であった。実際の環境試料として、黒雲母薄片試料のμ-XRFマッピング分析を行ったところ、Uが濃集する部位ではRbの強度が低い傾向が得られ、黒雲母中におけるUの濃集が風化によって層間イオンが失われた部位で進行していることを示唆する結果が得られた。この14keV付近のエネルギー領域には、UのみならずNpやPuなどのマイナーアクチノイドのLα線も存在するため、TESを用いた干渉フリーな微量元素分析は、環境中の微量アクチノイド研究にも広く展開できると考えられる。