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[MGI28-01] 構造化地質図データを用いた地すべり発生の統計力学的予測
キーワード:地質図、地すべり、統計力学的、ニューラルネットワーク
本研究では、広域かつ複雑な地域における地すべりの発生しやすさを予測するために、構造化地質図を使用する方が有利であることを紹介する。構造化地質図は、形成年代(年代)、岩石の岩石学的分類クラス(岩石)、岩石の形成環境(岩相)の3種類の変数を分離したものである。これに対して、通常の地質図(非構造化地質図)は、年代、岩種、形成環境という複合的な性質を統合して分類している。 構造化地質図の3つの独立変数は、それぞれ数10個の値で数1000の地質体を表現することができる。ニューラルネットワークアルゴリズムを用いて、地すべりの発生確率を地すべりしやすさとして予測する。使用した地質図データは,産総研の1/20万分の1に日本シームレス地質図V2(GSJ, 2022),5万分の1地質図幅「伊万里」(今井ほか,1959)と「佐世保」(松井ほか, 1989)をシームレス化した地質図である.さらに,国土地理院のDEM,防災科研の地すべり地形分布図をデータとして加えた.構造化地質図と非構造化地質図を用いて地すべりの発生確率を推定し、受信者動作特性(ROC)解析と精度-再現性(PR)解析を用いてその性能を比較した。その結果、5万分の1地質図と20万分の1地質図では、構造化地質図の方が非構造化地質図よりも優れていることが示された。また、1:200,000構造化地質図を用いた地すべりしやすさの計算範囲の違いによる性能の比較も行った。九州北西部(以下、佐世保・伊万里地域)の地すべりしやすさマップは、佐世保・伊万里地域を対象として計算したものと、北部九州全域を対象として計算し、佐世保・伊万里地域の結果を抽出したものの2種類を比較した。全領域に普遍的な確率分布が存在するという仮定が正しければ、両者の計算結果は互いに類似しているはずである。しかし、ROC解析とPR解析の結果と、地質単位ごとのじすべりしやすさの評価は大きく異なっている。この結果は、広域で変化する見過ごされた確率変数が存在する可能性を示唆している。すなわち、統一的な構造化地質図を用い計算領域を変化させた地すべりしやすさマップは、このような隠れた変数を検出できる可能性がある。