日本地球惑星科学連合2024年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-GI 地球科学一般・情報地球科学

[M-GI28] データ駆動地球惑星科学

2024年5月27日(月) 15:30 〜 16:45 202 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:桑谷 立(国立研究開発法人 海洋研究開発機構)、長尾 大道(東京大学地震研究所)、上木 賢太(国立研究開発法人海洋研究開発機構)、伊藤 伸一(東京大学)、座長:桑谷 立(国立研究開発法人 海洋研究開発機構)、上木 賢太(国立研究開発法人海洋研究開発機構)、中尾 篤史(秋田大学)、長尾 大道(東京大学地震研究所)

16:00 〜 16:15

[MGI28-03] 逆問題の枠組による大気ラム波の自動検出

今田 衣美2、*中島 健介1 (1.九州大学大学院理学研究院地球惑星科学部門、2.九州大学大学院理学府地球惑星科学専攻)

キーワード:大気ラム波、逆問題、津波早期警戒、一般逆行列

1. 研究の背景

大気波動の一種である大気ラム波は,地表面に捕捉されて水平に,ほぼ音速で伝わる。その位相速度 (約 310m/s)は津波(約200m/s)よりも速く,津波に先立って到達することが期待される。そのため 広範な微気圧測定網を整備しラム波を検出すること は津波の早期警戒に役立つと考えられる。早期警戒 を実際に行うためには,観測された気圧変動からラム波を自動検出できることが非常に望ましい。ここでは逆問題を使ったラム波検出法とその理論的背景を議論する。

2. 研究方法

逆問題は一般に既知のシステム(観測行列)M と 出力 w が与えられたときに,入力 v を求める問題で あり,その解は観測行列 M を特異値と特異ベクトルに分解する特異値解析を使って求められる。ラム波検出問題では出力 w が気圧観測データ,入力 v が推 定したい時刻(最新の時刻)の気圧・風の場の空間分布に対応する。また、ラム波の支配方程式(c =310m/s の波動を許す運動方程式と連続の式)で観測行列 M を作る。観測行列 M の構成にあたっては,片側のみのダランベール解を用いた。上記のシステムで推定した最新の時刻の気圧の空間分布とその時刻の実際の気圧観測データを比較し,一致していれば ラム波であると判定できる。本研究では、比較的狭い観測網を想定してラム波は特定の 1 方向から到来する平面波であると仮定し,空間 1 次元の逆問題を考察する。

3. ラム波の検出と到来方向の判定性能

400m/s ,310m/s(ラム波),200m/s ,60m/s ,10m/s で進む平面波の気圧変動を不規則に分布させた仮想観測点で観測したと想定し,最新の気圧分布の観測 を再現できるかを調べた。その結果,ラム波でかつシステムが仮定する1次元空間軸の方向が波の到来方向と一致しているとき残差が最小となり、ラム波 が到来方向とともに検出できる。

4. 逆問題の枠組と直感的方法の関係

観測データからラム波の支配方程式を満たす気圧分布を推定するための直感的な方法は観測データの等位相線に沿った平均を推定値とする手法である。 そこで,この直感的な方法と逆問題によるラム波検出法との対応関係を考察した。 出力(観測)空間と入力(推定)空間を直接比較できるとき,観測行列 M は内挿無しに構成できる。 このとき,推定空間を張る基底ベクトルの集合である右特異ベクトルは局在インパルス型であり,観測空間を張る基底ベクトルの集合である左特異ベクトルは局在インパルスの伝播を示し、直感的 な方法での等位相線構造が明確に見える。さらに自然一般逆行列は直感的方法との厳密な対応を与える。 一方,一般には観測空間と推定空間を直接比較できず,観測行列 M は内挿を含む。このとき,右特異 ベクトルは局在せず波型で,左特異ベクトルはその波の伝播を示し、直感的方法との対応は見えない。しかし自然一般逆行列を構成すると、大き な絶対値を持つ要素が各推定点について等位相線の近傍に局在しており、直感的な方法との対応を認識できる。ただし、等位相線から少し離れたところで 負の値をもつなど、対応は近似的である。

5. まとめと議論

内挿の有無が特異ベクトルの形状の違いを生むことが分かった。しかし自然一般逆行列では、この違いによらず、逆問題と直感的な手法の対応が現れる。 特に内挿無しに観測行列を構成できる場合には、逆問題による解法と直感的な解法は厳密に等価であることがわかった。それでも逆問題は、内挿が必須な 一般の幅広い場合を含めて解法構成の指導原理を提供する意味で、大きな実用的価値を持つと言える。