日本地球惑星科学連合2024年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-GI 地球科学一般・情報地球科学

[M-GI28] データ駆動地球惑星科学

2024年5月27日(月) 17:15 〜 18:45 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 6ホール)

コンビーナ:桑谷 立(国立研究開発法人 海洋研究開発機構)、長尾 大道(東京大学地震研究所)、上木 賢太(国立研究開発法人海洋研究開発機構)、伊藤 伸一(東京大学)

17:15 〜 18:45

[MGI28-P06] ⻑石の変質によって形成される空隙構造の特性評価:熱水変質とパーシステントホモロジーにからの考察

*藤原 秀平1岡本 敦1吉田 一貴2、木村 正雄2、石井 友弘2、城戸 大貴2 (1.東北大学大学院環境科学研究科、2.高エネルギー加速器研究機構)

キーワード:長石、熱水変質、空隙、3次元、幾何学、パーシステントホモロジー

高温の地殻において、流体の主な通り道は亀裂や結晶粒界とされてきた。近年、変質した岩石や鉱物、例えば長石や硫化鉱物、炭酸塩鉱物において、多数の微細空隙が存在することが発見され、流体との変質反応中に形成されるナノ〜マイクロスケールの空隙の形成メカニズムや役割が注目されている[1]。特に、長石の置換反応では、一方の長石(斜長石(Pl)またはカリ長石(Kfs))が塩水(NaCl, aqまたはKCl, aq)と反応し、他方の長石に置換し、多数の微細空隙が形成される[1]。
 長石の置換に関する多くの熱水実験が行われているが、空隙のネットワークの3次元形状や連結性、時間的進化は、空隙の観察が反応後にのみ実施されていること、走査型電子顕微鏡などを用いた2次元観察がほとんどであるため、まだ十分には理解されていない。さらに、複雑な幾何学的形状を持つ空隙を定量的に評価する指標も存在していない。この研究では、対照的な反応の熱水反応実験を行った:(1) カリ長石(Kfs)がNaCl溶液と反応し(アルバイト(Ab)による置換;ΔV=+8.85%)と、(2) アルバイト(Ab)がKCl溶液と反応し(カリ長石(Kfs)による置換;ΔV=-8.14%)。48時間および96時間の実験を繰り返し行い、高解像度X線CT撮影によって空隙の形状の時間的変化を調べた。次に、位相幾何学の一分野であるパーシステントホモロジーを用いて、空隙の特性を明らかにし、得られたパーシステンスダイアグラムから空隙の形成メカニズムについて議論した[2]。
 どちらの反応でも、結晶の亀裂や外縁部を進行する置換反応の反応フロントで空隙が形成された。長石(Ab)からカリ長石(Kfs)への置換反応(固体体積の増加)では、孤立した空隙が板状の形をしており、主要な亀裂にほぼ平行に配列していた。逆に、カリ長石(Kfs)から長石(Ab)への置換反応(固体体積の減少)では、空隙は枝分かれのある3次元の樹状構造を示し、その一部は中央の主要な亀裂と部分的に繋がっていた。96時間の反応後、48時間における空隙は閉じられ、新たな空隙は移動した反応フロントで形成された。
 3次元空隙の進化は、フィルタリングの際に連結成分の誕生(b)と死(d)がプロットされる0次のパーシステントダイアグラムを使用して評価される。長石(Ab)からカリ長石(Kfs)への48時間の置換では、birthsは広い範囲(-9から-2、1px は1.65μmに相当)に分布していたが、deathsは狭い範囲(-6から-2)にあった。対照的に、96時間の反応後には、(b<0, d<0)のプロットは(b<0, d>0)のプロットに移動した。PD内のこれらの特徴的なプロットの反転は、くびれた大きな空隙(b<0, d<0)が複数の孤立した空隙(b<0, d>0)に分割されることを示している。カリ長石(Kfs)から長石(Ab)への置換におけるPDでは、48時間から96時間への傾向は、長石(Ab)からカリ長石(Kfs)への置換で観察されたものとは逆で、複数の孤立した空隙が変質の進行とともに繋がり、大きな樹状の空隙が形成されたことを示唆している。固体体積の減少による反応フロントでのナノ空隙の連続的形成、および化学ポテンシャル勾配に沿った空隙の拡散と集合が、そのような特徴的な空隙構造の形成を担っている可能性がある。
[1]Plümper O, Botan A, Los C, Liu Y, et al. 2017, Nature Geoscience, 10, 685-691
[2]Kimura M, Obayashi I, Takeichi Y et al. 2018. Scientific Reports, 8, 3553.