日本地球惑星科学連合2024年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-GI 地球科学一般・情報地球科学

[M-GI29] 計算科学が拓く宇宙惑星地球科学

2024年5月29日(水) 09:00 〜 10:30 303 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:大淵 済(神戸大学)、牧野 淳一郎(国立大学法人神戸大学)、亀山 真典(国立大学法人愛媛大学地球深部ダイナミクス研究センター)、堀田 英之(名古屋大学)、座長:大淵 済(神戸大学)

10:00 〜 10:15

[MGI29-05] 分子動力学シミュレーションで探るダストモノマー間相互作用

*吉田 雄城1小久保 英一郎2田中 秀和3 (1.東京大学、2.国立天文台、3.東北大学)

キーワード:微惑星形成、ダスト成長過程、分子動力学シミュレーション

惑星形成の初期段階はダストの成長である。ダストはサブミクロンサイズの球 (モノマー) からなる集積体 (アグリゲイト) であると考えられている。ダストアグリゲイトは衝突により合体成長をすると考えられているが、サイズが大きくなるにつれ衝突による破壊や周囲のガスによる抵抗を受けてダストが微惑星へ成長する前に中心星へ落下してしまう可能性が指摘されており、ダスト破壊や中心星落下は惑星の形成を阻害する問題である。ダスト成長を理解するために、ダスト衝突過程を詳しく知ることは必要不可欠であり、衝突合体確率やダスト破壊臨界速度、衝突合体後のダストサイズ、密度、破片数などの衝突過程が数値シミュレーションにより調べられている(e.g., Wada et al. 2008,2013; Suyama et al. 2008,2012)。

ダスト衝突の数値シミュレーションはモノマーのN体計算であり、接触しているモノマー間に働く相互作用を計算する。そして、数値シミュレーションでは接触している弾性球間の力やトルクを与えるJohnson-Kendall-Roberts (JKR) 理論やDominik & Tielens (DT) モデルが用いられている。分子の存在は並進運動エネルギー散逸を引き起こすことが指摘されているが (Tanaka et al. 2012)、これらのモデルは分子の運動を考慮していない。したがって、分子運動などのミクロ物理を取り入れた接触相互作用モデルの拡張が必要である。ダスト衝突結果は、相互作用モデルによく依存し、例えば接触面に対し法線方向の相互作用はダストの合体臨界速度と関係があることが調べられている (Wada et al. 2013)。また、モノマーの回転運動はアグリゲイト衝突過程において最もエネルギー散逸を引き起こすため衝突過程において重要な相互作用である (Arakawa et al. 2022)。接触しているモノマー同士が表面を転がる時、接触面がはがれて新しい接触面を形成するが、転がっている間にエネルギーは散逸する。しかし、そのエネルギー散逸の大きさはモデルの値 (Dominik & Tielens 1995) と実験値 (Heim et al. 1999) で異なっており、接触モデルに不定性が存在する。

そこで本研究は、分子動力学 (MD) シミュレーションを用いたモノマー同士の正面衝突過程と回転運動の解明を行った。MDシミュレーションは、物体を多数の分子で構成して分子のN体計算を行い物理過程をシミュレーションする方法である。我々はまず、等質量のモノマーを用意し、サイズや衝突速度を変化させて2モノマーの正面衝突のMDシミュレーションを行った。その結果、サイズが小さい、または衝突速度が大きいほど並進運動のエネルギーが強く散逸することが分かった。そこで我々は、散逸と接触面圧力に関係があると考え、圧力に依存する新しい散逸力モデルを構築することで、MDシミュレーション結果を再現することに成功した。
次に我々は、接触しているモノマーの回転運動に関するMDシミュレーションを行い、初期回転角速度を変化させながら、回転角や角速度の時間進化を調べた。モノマーの回転運動の時間発展は主に2つの運動に分けられる。最初はモノマー同士は互いの表面を転がりながら角速度は0に近づく運動をし、その後接触面が固定された状態で振動運動をする。転がった角度や角速度の時間変化から、回転によるエネルギー散逸の大きさはDTモデルの値と同等であることが示された。また、振動運動には減衰が見られ、これはエネルギー散逸を示唆している。この減衰運動は角速度に比例する散逸トルクを導入したモデルによって再現に成功した。
本発表は、以上の結果を紹介する。