日本地球惑星科学連合2024年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-GI 地球科学一般・情報地球科学

[M-GI30] 情報地球惑星科学と大量データ処理

2024年5月31日(金) 17:15 〜 18:45 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 6ホール)

コンビーナ:村田 健史(情報通信研究機構)、野々垣 進(国立研究開発法人 産業技術総合研究所 地質調査総合センター)、深沢 圭一郎(京都大学学術情報メディアセンター)、木戸 ゆかり(国立研究開発法人海洋研究開発機構)

17:15 〜 18:45

[MGI30-P01] ディープラーニングによる石英粒の自動検出方法の開発

*中川 愛珠1上原 真一1 (1.東邦大学理学部)

キーワード:ディープラーニング、石英粒、自動検出、混同行列

岩盤中に発達した断層は、未変形の岩石とは異なる透水性を持つ。断層に沿った透水性は、断層帯の内部構造、特に割れ目のネットワークの発達の程度に強く依存する。断層帯の内部構造は影響される様々な要因がある。その要因の一つとして、断層形成前の岩石内の割れ目の分布が挙げられる。菊池(2021)では、母岩中の割れ目分布が断層の内部構造に及ぼす影響を調査する目的で、インド産砂岩試料を封圧下で軸変形実験を行い、変形前後の試料内部の構造解析を行った。内部構造の解析では、断層の中央からの距離に対する粒内亀裂密度の導出を行った。この時、変形前から存在したへき開を粒内亀裂としてカウントすることを避けるため、へき開の少ない石英粒のみを粒内亀裂密度の導出に用いた。その際、石英粒は手作業で検出した。しかし、この方法では、検出者の知識や経験に結果が左右されること、高精度かつ客観的な評価が困難であること、膨大な時間と労力を要することなどの問題がある(山根・全, 2019)。そこで本研究では、機械学習と画像処理を用いて、インド産砂岩の薄片画像から石英粒を自動検出する方法を開発することを目的とした。
 実験試料として、インド産の砂岩(構成鉱物: 石英68.2%, 斜長石9.5%, カリ長石18.2%, 雲母0.7%, その他3.3%. 高知コア研究所より情報提供)の変形前の試料の薄片を使用した。この岩石を構成する鉱物の粒径は約0.02 mm - 0.1 mmである。石英粒を自動検出する方法として、画像処理パッケージFijiのプラグインであるTrainable Weka Segmentation(TWS;Arganda-Carreras et al., 2017)を用いた。TWSは教師あり学習の一つである。TWSは通常の教師あり学習とは異なり、多くの画像データが必要ではなく、一枚の入力画像から特定クラスを指定して学習させる。それを元に他の画像で同じような箇所を検出し、クラスに分類する。今回は、入力画像内から、異なる教師データセットを選定し学習させ、それらの結果を比較することで、教師データの設定のやり方が結果に与える影響について検討した。機械学習に用いた入力画像は、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて反射電子-組成像モード、入射電圧:15.0kv、WD:13.2mm、低真空で観察・撮影した。解像度は1 pixel=10.8 μmである。その後、MATLABを用いてそれぞれの画像を二値化し、数値データに変換した。SEM画像から手動で検出した石英粒の画像(正解画像)を、TWSで学習した結果の画像と比較し、混同行列から正解率と適合率を算出した。
 機械学習の結果、最高で正解率 78.68%、適合率 80.74%の精度を算出することができた。一部の試行では、教師データを増やすと精度が向上する結果が見られたが、教師データを増やすと過学習が発生したり、逆に教師データを追加しても精度がほとんど変わらない結果が得られたりすることもあった。これは、入力画像内のノイズが多いことや、分類するクラスの数が少ないことが要因であると考えられる。このことから、教師データの数だけでなく、教師データの種類が機械学習の精度を左右している可能性があると考える。
 本研究では、機械学習と画像処理を組み合わせて、砂岩薄片画像から石英粒を自動検出する方法を開発した。結果から、学習の精度は過学習や画像のノイズに影響を受けることが示唆された。今後の研究では、石英の粒内亀裂の自動検出も含めて、入力画像のノイズ処理やTWSのアルゴリズムやデータセットの拡充による改善を目指す。

<参考文献>
I. Arganda-Carreras., A. Cardona., V. Kaynig., J. Schindelin (2017) Bioinformatics,
 33 (15), pp. 2424–2426.
菊池 結花,他(2021):日本地球惑星科学連合2021年大会.初期亀裂の分布が断層帯の内部構造と透水性に与える影響.
山根,全(2019): Deep learningによるSemantic Segmentationを用いたコンクリート表面ひび割れの検出,土木学会,構造工学論文集 Vol.65A, pp.130-138.