日本地球惑星科学連合2024年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-GI 地球科学一般・情報地球科学

[M-GI31] 地球掘削科学

2024年5月28日(火) 17:15 〜 18:45 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 6ホール)

コンビーナ:岡崎 啓史(広島大学先進理工系科学研究科地球惑星システム学プログラム)、井尻 暁(神戸大学)、浦本 豪一郎(高知大学)、北村 真奈美(産業技術総合研究所)

17:15 〜 18:45

[MGI31-P02] 本巣市根尾水鳥における根尾谷断層破砕帯のシーリング過程

*吉田 拓海1岡田 直也1大谷 具幸2 (1.岐阜大学大学院自然科学技術研究科、2.岐阜大学工学部)

キーワード:根尾谷断層、破砕帯、シーリング過程

根尾谷断層は岐阜県北西部に位置する左横ずれ活断層であり,内陸型地震としては最大級である推定M8.0の濃尾地震(1891年)を起こしている.濃尾地震から約130年が経過していることから,根尾谷断層の断層破砕物質について調査することで断層活動後のシーリング過程が明らかになることが期待される.
根尾谷断層では断層破砕物質による断層の活動性の評価手法に関する研究の一環として原子力規制庁により2018年度にボーリング掘削が行われた.掘削が行われた本巣市根尾水鳥ではジュラ紀付加体の泥岩基質メランジュが分布しており,断層ジョグの内側が6 m隆起したことが知られている.ボーリングコアは,断層ジョグの内側から外側に向かって南西に,地表面における根尾谷断層トレースに直交する方角に掘削され,NDFD-1-S1では深度382 m地点で最新すべり面を貫通している.ボーリングコアは泥岩・玄武岩・チャートにより構成される.
先行研究では,岡田ほか(2023)により断層破砕物質の一種である断層ガウジが根尾谷断層の活動に伴い密度低下し方解石が充填されることにより密度回復が起こることが示唆されたが,最新の断層活動後に最新すべり面内部で方解石は析出していないことが明らかとなり,最新すべり面以外の断層ガウジ中で方解石の充填が生じていることが期待される.そこで本研究では,最新すべり面及びその近傍に分布する断層ガウジ中での方解石等の鉱物充填を確認し,根尾谷断層の活動に伴う断層破砕帯のシーリング過程を明らかにすることを目的とする。
走査型電子顕微鏡(SEM)による反射電子(BSE)像観察とSEM-EDXによる元素マッピングにより根尾谷断層ボーリングコアの岩石薄片を詳細に観察し,最新すべり面内部から近傍にかけての広範囲における鉱物の分布と微細鉱物の形状を調査した。
最新すべり面に隣接する断層ガウジでは、Caを含む2種類の鉱物脈があり、一方は幅が一定の直線状であり、もう一方は幅が一定でない帯状の鉱物脈が見られた。鉱物脈は粒径数mmの多数の方解石で主に構成され,フラグメント化した石英等の他の鉱物や基質を取り込みながら分布しており,鉱物脈の一部では弱い自形性を有する方解石が確認された。これは,断層活動時に生じた亀裂に方解石が周囲の鉱物と基質を取り込みながら自形性を有した状態で急速に晶出したことを示唆している.
最新すべり面から40 cm離れた断層ガウジでは、断層ガウジの面構造を垂直に切るようにCaを含む直線状の鉱物脈が発達している.直線状の鉱物脈は平均原子番号が一様ではなく複数の方解石脈等によって構成されており,それぞれが平行に発達している.これは断層活動後の亀裂に方解石等の鉱物が晶出することで直線状の鉱物脈となり,別の断層活動時に既存の鉱物脈沿いに亀裂が開き,その亀裂が再び方解石等の鉱物により充填されるというサイクルを繰り返していることを示唆している.
兵庫県南部地震(1995年)を引き起こした野島断層のボーリングコアに関する研究 (Boullier et al., 2004) によると,断層活動で生じた亀裂に沿い地下水が上昇しCO2の分圧が低下することで,自形の炭酸塩鉱物であるアンケライトとシデライトが晶出したことが示唆されている。加えてSibson (1990) のFault-valve Behaviorの考えを加味することにより,根尾水鳥における根尾谷断層破砕帯のシーリング過程は以下のようであると考えられる.
断層活動前、断層面を横切る透水性の低い層が形成され,その層の下部で間隙水圧が静水圧よりも高くなる.そして断層活動時に断層活動により透水性の低い層が破壊され,断層岩中で主にすべり面と低角に斜交する方向に亀裂が形成される.断層活動直後、形成された亀裂に沿って,地下水が流路側面の鉱物片や基質を取り込みながら急速に上昇する.地下水の上昇が終了するまでの間,亀裂に自形の炭酸塩鉱物が急速に晶出しシールされる.断層活動後は断層に沿ってCO2に富む流体が供給されることで方解石の溶解が非常にゆっくりと進行し,元々完全に自形であった方解石は十分な時間が経つと溶解によりやや角の取れた菱形の弱い自形性を有する方解石となる.断層活動で生じたフラクチャはゆっくりとシールされ,別の断層活動で破壊されることなく十分な時間が経つと鉱物脈となる.
以上のように根尾水鳥における根尾谷断層破砕帯のシーリング過程は,断層活動直後の地下水の上昇による急速な方解石等の炭酸塩鉱物の晶出と,断層活動後のゆっくりとした鉱物の晶出によって成り立ち,これらが過去には繰り返されていた可能性が高い.

 岡田ほか(2023)、根尾谷断層最新すべり面における方解石の特徴と強度回復、