日本地球惑星科学連合2024年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-GI 地球科学一般・情報地球科学

[M-GI31] 地球掘削科学

2024年5月28日(火) 17:15 〜 18:45 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 6ホール)

コンビーナ:岡崎 啓史(広島大学先進理工系科学研究科地球惑星システム学プログラム)、井尻 暁(神戸大学)、浦本 豪一郎(高知大学)、北村 真奈美(産業技術総合研究所)

17:15 〜 18:45

[MGI31-P04] 苦鉄質・超苦鉄質岩を用いた掘削実験:掘削パラメータを用いた岩相推定の考察

*谷本 和優片山 郁夫1濱田 洋平2 (1.広島大学、2.独立行政法人海洋研究開発機構 高知コア研究所 )

キーワード:掘削パラメータ、苦鉄質岩、超苦鉄質岩、掘進速度

マントルの対流は地球内部での物質循環やプレートテクトニクスといった地質学的進化をもたらす。このマントルの実態を解明するため国際深海科学掘削計画(IODP)ではモホ面の貫通を目標とした海洋底掘削が行われてきた。モホ面とは海底下約7 kmに存在する地震波速度不連続面で、地殻を構成する斑れい岩とマントルを構成するかんらん岩の地震波速度の違いを反映していると考えられてきた。しかし、この不連続面はかんらん岩と水が反応することで形成される蛇紋岩による変質の境界を反映しているというモデルも存在するため(Clague and Straley, 1977)、モホ面の岩相モデルは未だ解決していない。かんらん岩のP波速度は約8 km/sに対し、斑れい岩は約6–7 km/sであるため2つの岩石の地震波速度には違いがある。しかし、かんらん岩の地震波速度は蛇紋岩化に伴い低下するため、蛇紋岩と斑れい岩を地震波速度のみから判別することは難しい。そこで我々は別のパラメータとして掘削際中に記録される掘削パラメータに注目した。この掘削パラメータとはドリルビットを使用して海底掘削を行う際に得られるビットの荷重や回転速度、そして回転に必要なトルクや掘進速度といったデータであり、連続的かつ確実に得られることが報告されている(Hamada et al., 2018)。そして海洋プレートを構成する岩石による掘削パラメータの違いがわかれば、モホ面などを掘削する際中での岩相変化の推定に応用することができる。よって本研究では苦鉄質・超苦鉄質岩を用いた掘削実験を行い、その実験結果をこれまでIODPによる掘削で得られたデータと比較することで掘削パラメータの岩石依存性を検証した。
実験試料はオマーンオフィオライトで採取された蛇紋岩(2試料)と斑れい岩(2試料)、そして北海道幌満岩体で採取されたかんらん岩(2試料)とマフィックグラニュライト(1試料)を使用した。掘削実験は高知コア研究所の高速剪断摩擦試験機を用いて行った。実験ではステンレス製のビットと乾燥状態の試料を試験機に取り付けたのち、ビット荷重を0.3–0.9 kN、 回転速度を1.5–0.1 RPMに変化させた時のトルクと掘進速度を計測した。また乾燥条件に加えて、試験機に水槽を取り付けることにより水中下での掘削実験も同様に行った。
乾燥条件での実験の結果、掘進速度はビット荷重や回転速度の増加に伴い上昇する傾向が見られた。そして蛇紋岩したかんらん岩の掘進速度はかんらん岩や苦鉄質岩に比べておよそ2倍速い結果が得られた。またトルクの結果はどのサンプルもおおよそ同じ大きさであったため、掘削パラメータの岩石依存性はトルクよりも掘進速度に顕著に表れることがわかった。水中での実験結果では、乾燥状態の時に比べて掘進速度がおよそ2倍速い値を示した。しかし、蛇紋岩の掘進速度が他の岩石に比べて顕著に速いという岩石依存性は乾燥状態と同様に見られた。
岩石を掘削する過程では垂直方向にて岩石にビットを押し込みながら破壊する力と、水平方向にて破壊された岩石を切削しながら回転する2つの力が働いている。蛇紋岩化したかんらん岩が他の岩石よりも高い掘進速度を示すのは、蛇紋岩化に伴い一軸圧縮強度が低下することによるものだと考えられる。また水中条件下では乾燥条件の時に比べて高い掘進速度を示すのは、岩石の割れ目に水が入ることにより、応力腐食のよってクラックの形成速度が大きく上昇したことが原因だと考えられる。
IODP Exp. 360では米科学掘削船ジョイデス・レゾリューション号によって、中央インド洋海嶺アトランティス海台にて斑れい岩の掘削が行われた。またIODP Exp. 399では大西洋中央海嶺アトランティス岩体で蛇紋岩化したかんらん岩の掘削が行われ、掘削パラメータの結果が報告されている。2つの研究航海で得られた掘削パラメータはビット荷重や回転速度に違いがあるため、掘進速度やトルクの生データを比較することはできない。そこで掘削等価強度法を用いて同じ回転速度及びトルク条件下になるよう掘進速度を規格化した。その結果、室内実験と同様に蛇紋岩化したかんらん岩の掘進速度は斑れい岩に比べて顕著に速いという岩石依存性を示した。このことから掘進速度から蛇紋岩の岩相を判別できる可能性があり、モホ面付近の岩相を推定する際は従来の地震波速度といった物性値に加えて掘進速度といった掘削パラメータも考慮する必要がある。