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[MIS08-03] 断層露頭の保全の課題と取り組み -三好ジオパーク構想エリアの事例-
キーワード:断層露頭保全、中央構造線、硫酸塩鉱物、ジオパーク、ジオコンサベーション
【はじめに】
断層露頭の保全の取り組みは国内でも各地域で行われている.特に,地震災害の教訓を後世に伝える貴重な教材として,野島断層や根尾谷断層などの震源域に明瞭な地震断層が出現した断層では,屋内での露頭保全が行われている(岡田., 2011 ).
しかしながらそのような事例は少なく,屋外での保全がなされているケースが多い.屋外の断層露頭では,主に①侵食や植物の繁茂など自然要因,②露頭の意図せぬ人為的な破壊によって,露頭の保全や視認性の確保が難しくなる場合がある(朽津., 2022).
【三好ジオパーク構想エリアの断層露頭の現状と課題】
三好ジオパーク構想(徳島県三好市および東みよし町)エリアには,中央構造線活断層系が東西方向に貫いており,断層露頭が数カ所露出している.その中でジオサイトに選定されている2箇所の断層露頭の現状と課題について紹介する.
1箇所は太刀野の中央構造線サイト(三好市三野町太刀野)である.この露頭は,中央構造線活断層系の一つである池田断層の破砕帯が河原に露出しており,露頭の希少性から、県の天然記念物に指定されている(三野町教育委員会., 2007).しかしながら,隣接する吉野川の増水により,露頭が頻繁に水没し,砂泥が堆積する状況にある。そのため,露頭の視認性が困難な状態が長年続き,視認性が悪い状況が長く続いている.
もう1箇所は,国道32号線,通称猪鼻道路の中央構造線サイト(三好市池田町州津)である.道路法面に露出しているこの露頭は,池田断層の断層面および断層面両側の地層(南側:礫層、北側:和泉層群破砕帯)を観察できる.この露頭は,道路新設時に出現したものであり,学術的な貴重性から,露頭表面に固化溶剤を散布し,さらに保全用カバーを設置する保全方法がとられた(田中., 2011).しかし現在,カバー内側の露頭には植物が繁茂し,さらに地質の表面には最大厚さ1cmほどの白色針状鉱物が析出して,覆い破砕帯に特徴的な構造が観察できない状態となっている.
【断層露頭保全へのアプローチ】太刀野の中央構造線サイトこの露頭の視認性が悪くなるタイミングを明らかにするため,まずは露頭上にある砂泥などの堆積物除去作業を行った.作業後,吉野川の増水があったため再び除去作業を行った.2回目の作業時で明らかになったことは,吉野川の上流にある池田ダムの放流量が約3000 m3/sを超えると,露頭が浸水し,砂泥が堆積することである。この指標をもとに保全作業の時期を定めることが可能となった.猪鼻道路の中央構造線サイト中央構造線活断層系露頭において,他地域でも地質表面への二次鉱物の析出が認められている(伊藤ら2022).この露頭に析出している白色針状鉱物の同定および生成過程を明らかにするため,道路設備点検に伴う通行止めに併せて露頭保全カバーを一部外し,白色針状鉱物を数点採取した.採取後の試料は京都大学の粉末X線回析装置(リガクMiniFlex60)により鉱物同定を行った。分析の結果,白色針状鉱物はソーダミョウバン(NaAl(SO4)・12H2O)やタマルガイト(NaAl(SO4)・6H2O)などのNa-richな硫酸塩鉱物からなることが明らかとなった.他地域の露頭での硫酸塩鉱物の析出に関する報告では、乾燥環境下では析出が増加し,湿潤下では減少することが示唆されている(堀口ら., 2000)。このことから,白色針状鉱物の析出は,保全カバーにより露頭表面の乾燥環境が維持されていることと関係していると考えられる.
本発表では,上記2箇所の断層露頭で行った取り組みによって,明らかになったことおよび今後の当地域での保全活動について報告し、議論したい.
引用文献:岡田篤正 (2011) 地震断層の保存と「活断層百景」・「フォトコンテスト」. 2011年度日本地理学会春季学術大会要旨集.朽津信明 (2022) 報告:文化財としての自然史資料の現地保存.保存科学. No.61. p.13-31三好市教育委員会, 社)徳島新聞社. (2007) 徳島の文化財. p.429田中亘 (2011) 道路工事で中央構造線の活断層を保全~国道32号猪ノ鼻道路保存検討委員会で決定~. https://www.skr.mlit.go.jp/kikaku/kenkyu/h23/pdf/08.pdf伊藤博信, 長谷川修一, 山中稔, 西山賢一, 石田啓祐(2022)四国の高速道路切土法面における酸性土の分布と成因. 応用地質. 第63巻. 第3号. p.96-111堀口隆士, 中田正隆, 鹿園直建, 本間久英(2000)凝灰岩表面での塩類集積現象に見られるアルノーゲンの産状および生成過程 -埼玉県吉見丘陵を例として-. 鉱物学雑誌. 第29巻.第1号. p.3-6
断層露頭の保全の取り組みは国内でも各地域で行われている.特に,地震災害の教訓を後世に伝える貴重な教材として,野島断層や根尾谷断層などの震源域に明瞭な地震断層が出現した断層では,屋内での露頭保全が行われている(岡田., 2011 ).
しかしながらそのような事例は少なく,屋外での保全がなされているケースが多い.屋外の断層露頭では,主に①侵食や植物の繁茂など自然要因,②露頭の意図せぬ人為的な破壊によって,露頭の保全や視認性の確保が難しくなる場合がある(朽津., 2022).
【三好ジオパーク構想エリアの断層露頭の現状と課題】
三好ジオパーク構想(徳島県三好市および東みよし町)エリアには,中央構造線活断層系が東西方向に貫いており,断層露頭が数カ所露出している.その中でジオサイトに選定されている2箇所の断層露頭の現状と課題について紹介する.
1箇所は太刀野の中央構造線サイト(三好市三野町太刀野)である.この露頭は,中央構造線活断層系の一つである池田断層の破砕帯が河原に露出しており,露頭の希少性から、県の天然記念物に指定されている(三野町教育委員会., 2007).しかしながら,隣接する吉野川の増水により,露頭が頻繁に水没し,砂泥が堆積する状況にある。そのため,露頭の視認性が困難な状態が長年続き,視認性が悪い状況が長く続いている.
もう1箇所は,国道32号線,通称猪鼻道路の中央構造線サイト(三好市池田町州津)である.道路法面に露出しているこの露頭は,池田断層の断層面および断層面両側の地層(南側:礫層、北側:和泉層群破砕帯)を観察できる.この露頭は,道路新設時に出現したものであり,学術的な貴重性から,露頭表面に固化溶剤を散布し,さらに保全用カバーを設置する保全方法がとられた(田中., 2011).しかし現在,カバー内側の露頭には植物が繁茂し,さらに地質の表面には最大厚さ1cmほどの白色針状鉱物が析出して,覆い破砕帯に特徴的な構造が観察できない状態となっている.
【断層露頭保全へのアプローチ】太刀野の中央構造線サイトこの露頭の視認性が悪くなるタイミングを明らかにするため,まずは露頭上にある砂泥などの堆積物除去作業を行った.作業後,吉野川の増水があったため再び除去作業を行った.2回目の作業時で明らかになったことは,吉野川の上流にある池田ダムの放流量が約3000 m3/sを超えると,露頭が浸水し,砂泥が堆積することである。この指標をもとに保全作業の時期を定めることが可能となった.猪鼻道路の中央構造線サイト中央構造線活断層系露頭において,他地域でも地質表面への二次鉱物の析出が認められている(伊藤ら2022).この露頭に析出している白色針状鉱物の同定および生成過程を明らかにするため,道路設備点検に伴う通行止めに併せて露頭保全カバーを一部外し,白色針状鉱物を数点採取した.採取後の試料は京都大学の粉末X線回析装置(リガクMiniFlex60)により鉱物同定を行った。分析の結果,白色針状鉱物はソーダミョウバン(NaAl(SO4)・12H2O)やタマルガイト(NaAl(SO4)・6H2O)などのNa-richな硫酸塩鉱物からなることが明らかとなった.他地域の露頭での硫酸塩鉱物の析出に関する報告では、乾燥環境下では析出が増加し,湿潤下では減少することが示唆されている(堀口ら., 2000)。このことから,白色針状鉱物の析出は,保全カバーにより露頭表面の乾燥環境が維持されていることと関係していると考えられる.
本発表では,上記2箇所の断層露頭で行った取り組みによって,明らかになったことおよび今後の当地域での保全活動について報告し、議論したい.
引用文献:岡田篤正 (2011) 地震断層の保存と「活断層百景」・「フォトコンテスト」. 2011年度日本地理学会春季学術大会要旨集.朽津信明 (2022) 報告:文化財としての自然史資料の現地保存.保存科学. No.61. p.13-31三好市教育委員会, 社)徳島新聞社. (2007) 徳島の文化財. p.429田中亘 (2011) 道路工事で中央構造線の活断層を保全~国道32号猪ノ鼻道路保存検討委員会で決定~. https://www.skr.mlit.go.jp/kikaku/kenkyu/h23/pdf/08.pdf伊藤博信, 長谷川修一, 山中稔, 西山賢一, 石田啓祐(2022)四国の高速道路切土法面における酸性土の分布と成因. 応用地質. 第63巻. 第3号. p.96-111堀口隆士, 中田正隆, 鹿園直建, 本間久英(2000)凝灰岩表面での塩類集積現象に見られるアルノーゲンの産状および生成過程 -埼玉県吉見丘陵を例として-. 鉱物学雑誌. 第29巻.第1号. p.3-6