[M-IS10] 南大洋・南極氷床が駆動する全球気候変動

[MIS10-11] 東南極メルツ氷河近傍における氷河・海氷融解水が海洋表層二酸化炭素分圧に与える影響

*佐守 那菜¹、野村 大樹^1,2,3、戸澤 愛美¹、中岡 慎一郎⁴、山崎 開平^5,6、平野 大輔⁷、青木 茂⁸、村瀬 弘人⁹ (1.北海道大学水産科学院、2.北海道大学北方生物圏フィールド科学センター、3.北海道大学北極域研究センター、4.国立環境研究所、5.タスマニア大学、6.豪州南極卓越センター、7.国立極地研究所、8.北海道大学　低温科学研究所、9.東京海洋大学)

キーワード：南極海、二酸化炭素分圧、氷河、海氷

海洋表面の二酸化炭素分圧（pCO₂）は、大気−海洋間のCO₂フラックスの主な決定要因であるため、その変動要因を明らかにすることは重要である。近年、東南極では氷床融解による海洋表面のpCO₂への影響が報告されている。そこで、本研究では、2010年の氷河崩壊により海洋環境が劇的に変化した東南極メルツ氷河近傍における氷河・海氷融解がそれぞれ海洋表面pCO₂に与える影響を明らかにするために、水産庁漁業調査船開洋丸による第10次南極海調査において140−150˚Eのメルツ氷河付近の海洋観測（2019年1月26日から2019年2月4日）を実施した。航行中、海洋表面pCO₂を連続的に測定した。また、メルツ氷河近傍の観測点において、全層CTD採水を実施し、酸素安定同位体比（δ¹⁸O）、溶存無機炭素（DIC）、全アルカリ度（TA）を分析した。さらに、水柱における淡水の起源を特定し、それぞれがpCO₂に与える影響を定量評価するために、塩分とδ¹⁸Oの関係を用いて氷河融解水、海氷融解水、周極深層水（CDW）の混合比を算出した。沖合では、水深100−2000 mにCDWが流入していた。海氷融解水は表層に広く分布する一方で、氷河融解水は150°Eの表層やメルツ氷河域の海底付近に存在することが分かった。表層10 mでは、氷河融解水と海氷融解水によりCDWのpCO₂（431 ± 19 µatm）に対してそれぞれ9.1 ± 2.3 μatmおよび6.3 ± 2.5 μatm減少した。これは、CDWと観測値のpCO₂差（約94 μatmの減少）の約20%を占めた。また、塩分34.73で規格化し、融解水混合による影響を排除したnDICとnTAの分布より、生物生産の影響が示唆された。本研究では、塩分とδ¹⁸Oの関係より、淡水の起源を海氷融解水と氷河融解水に分け、それぞれがpCO₂に与える影響を定量的に評価することで、海氷融解水と同様に氷河融解水がpCO₂の低下に寄与していると示された。