日本地球惑星科学連合2024年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS10] 南大洋・南極氷床が駆動する全球気候変動

2024年5月31日(金) 17:15 〜 18:45 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 6ホール)

コンビーナ:草原 和弥(海洋研究開発機構)、石輪 健樹(国立極地研究所)、大藪 幾美(情報・システム研究機構 国立極地研究所)、関 宰(北海道大学低温科学研究所)


17:15 〜 18:45

[MIS10-P04] 最終氷期以降のウェッデル海北部における生物生産に基づいた古海洋環境の復元

*小山内 彩1池原 実2山口 飛鳥3、オブラクタ スティーブン4 (1.高知大学大学院総合人間自然科学研究科、2.高知大学 海洋コア国際研究所、3.東京大学 大気海洋研究所、4.秋田大学大学院国際資源学研究科)

キーワード:南大洋、生物生産、最終氷期、珪藻軟泥

南極寒冷圏(Antarctic Cryosphere)は地球の環境変動に対して敏感に応答する地域として知られており,全球気候システムの解明の重要なエリアとなっている.負の熱とCO₂の巨大なリザーバである南大洋の堆積物を分析することで,堆積環境及び海洋環境の変遷を明らかにすることができる.南大洋には南極大陸を東向きに周回する地球上最大の海流系である南極周極流(ACC:Antarctic Circumpolar Current)が存在し,全球の熱輸送,生物生産に影響を与えている.南大洋大西洋区に位置するウェッデル海の表層には,ACC南限以南に存在する循環流の中で最も大規模であるウェッデル循環が南緯55°-60°の南,西経60°-30°の間に存在している.ACCは偏西風,ウェッデル循環は北部が偏西風,南部は南極大陸の沿岸風によって駆動していることから,南極寒冷圏の温暖化や寒冷化等の気候イベントに伴って流域の拡大,縮小,南北への移動が生じることが知られている.ACCの南限(SB:Southern Boundary of the ACC)とウェッデル循環北部には各流域との境界部であるウェッデル-スコシア合流点(WSC:Weddell Scotia Confluence)が存在する.これまで,WSCやACCとウェッデル循環の境界域の堆積環境の変遷について明らかにする研究はほとんど行われていない.よって,本研究では白鳳丸KH-19-6 Leg4航海にて現代のSB流域から採取されたピストンコアPC07を用いて,過去およそ3万年間における堆積環境の変遷を復元することを目的とした.
ピストンコアPC07(58°45.0446’S,18°26.4848’W,4401 m water depth)の採取地点は,南アメリカ南極海嶺(ASSR:South American–Antarctic Ridge)に位置し,ASSRは南アメリカプレートと南極プレートの発散境界である.目視およびスミアスライド観察から,PC07コアの主な岩相は珪藻軟泥であることが確認された.また,バルク有機炭素の14C年代測定により堆積速度が高い堆積場であることが明らかとなり,珪藻を主体とする一次生産が高い堆積環境にあったことが予想される.そのため,生物生産に着目して堆積環境の復元を試みた.
現時点で,全有機炭素含有量(TOC),全窒素含有量(TN),有機炭素安定同位体比(δ¹³Corg),窒素同位体比(δ¹⁵N)と蛍光X線コアスキャナ(ITRAX)による無機地球化学データが取得されている.TOCはおよそ0.22 %,δ¹³Corgは-23 %,δ¹⁵Nは+4.6 ‰程度を示している.生物生産の指標とされるBr/Tiは完新世,及び,最終氷期の前期で局所的に増加していることが確認された.南大洋では一般的に生物源オパール濃度が高く,生物生産が大きい時代にはδ¹³Corgが相対的に大きい値を示し,δ¹⁵Nは相対的に小さい値を示す傾向があるもの,δ¹³Corgとδ¹⁵Nには相関が見られなかった.これらの結果に基づいて南大洋の生物生産量の変化を中心に,最終氷期から完新世の古海洋環境の変遷について議論する.