17:15 〜 18:45
[MIS10-P09] スーパー間氷期(MIS11)におけるケープダンレー底層水の弱化とその要因の推定

キーワード:南極底層水、スーパー間氷期、MITgcmモデル
南極底層水(AABW)は海洋子午面循環の主要な構成要素であり(Talley, 2013),負の熱と炭素の巨大な貯留源と考えられている.さらに,AABWは海洋深層に酸素を供給し,海洋生態系と生物地球化学サイクルに影響を与えるとされている(Henley et al., 2020).このような重要な役割にもかかわらず,AABW形成の過去と現在の動的な挙動は依然としてよく理解されておらず,特に温暖期に焦点を当てた研究では,MIS5eとMIS11に南極氷床の融解,もしくは偏西風の変化によるウェッデル底層水の弱化を示唆した報告にとどまっている(e.g., Hayes et al., 2014, Glasscock et al., 2020).そこで本研究では,AABW構成要素の一つであるケープダンレー底層水(CDBW)に焦点を当て,過去50万年間におけるCDBW強度の復元を行い,どのような環境変化によって過去にCDBW形成の弱化が生じたのかを古環境記録と海洋モデルの比較により明らかにすることを目的として研究を行った.
本研究では,白鳳丸KH-20-1次航海でワイルドキャニオンの東側斜面で採取されたWIC-6PCコア(水深3153 m)を用いた.年代モデルは,14C年代(TOC),珪藻および放散虫の生層序,Cycladophora davisiana相対産出頻度,および,古地磁気層序から求めた.古環境代理指標は,X線CT(Ice Rafted Debris; IRDカウント),ITRAX(無機元素),粒度分析(古流速),脂肪酸の炭素同位体比(海氷縁の生物生産),珪藻群集(古環境)を使用した.粒度分析では,多峰性の粒度分布を持つ堆積物から,堆積過程の識別と定量化のために端成分混合解析(R-package EMMAgeo)を行った.またモデル実験では,Mensah et al. (2021)で開発されたケープダンレーポリニヤ域の領域海洋モデル(MITgcm)を使用した.モデル解像度は,水平2 km,垂直40 mを採用し,構成とパラメータはMensah et al. (2021)に従った.加えて,温暖環境を想定した環境条件は,海洋観測報告,古気候記録,Obase et al. (2021)の気候モデルMIROCの最終氷期(21 ka)と現代の差分を基に再現した.
その結果,古環境復元からは,他の間氷期とは異なり,MIS11に長期的なCDBW形成の有意な弱化が確認された.端成分混合解析では,粒度の端成分(EMs)は3つに区分され,それぞれ底層流の強さを反映していた(EM110~15 cm/s)は,MIS5からMIS9の各間氷期において高い含有を示したが,MIS11ではEM3は減少し,流速の減衰を示した(<5~10 cm/s).海底の酸化還元指標であるMn/Fe比も,MIS11に亜酸化的な環境へのシフトを示し,CDBW形成の弱化を支持していた.またMIS11では,海氷関連珪藻の相対産出頻度の減少とIRD供給の減少が確認されたため,当時,海氷影響が減少し,かつ氷山の融解が南極沿岸域に制限されるような温暖な環境であったことが示唆された.一方で,モデル実験からは,気温上昇(+2℃),水温上昇(+0.7℃),低塩化(-0.1)の環境条件を組み合わせた際に,秋季の海氷生産開始の遅れと低塩化に伴う,古気候記録と類似したCDBW流速の弱化が確認された.以上より,古環境記録とモデル実験は整合的な結果が得られ,MIS11におけるCDBW形成の弱化は,底層水形成域における海洋表層水温の上昇に伴う,海氷影響の減少と低塩化に関連していることが示唆された.
本研究では,白鳳丸KH-20-1次航海でワイルドキャニオンの東側斜面で採取されたWIC-6PCコア(水深3153 m)を用いた.年代モデルは,14C年代(TOC),珪藻および放散虫の生層序,Cycladophora davisiana相対産出頻度,および,古地磁気層序から求めた.古環境代理指標は,X線CT(Ice Rafted Debris; IRDカウント),ITRAX(無機元素),粒度分析(古流速),脂肪酸の炭素同位体比(海氷縁の生物生産),珪藻群集(古環境)を使用した.粒度分析では,多峰性の粒度分布を持つ堆積物から,堆積過程の識別と定量化のために端成分混合解析(R-package EMMAgeo)を行った.またモデル実験では,Mensah et al. (2021)で開発されたケープダンレーポリニヤ域の領域海洋モデル(MITgcm)を使用した.モデル解像度は,水平2 km,垂直40 mを採用し,構成とパラメータはMensah et al. (2021)に従った.加えて,温暖環境を想定した環境条件は,海洋観測報告,古気候記録,Obase et al. (2021)の気候モデルMIROCの最終氷期(21 ka)と現代の差分を基に再現した.
その結果,古環境復元からは,他の間氷期とは異なり,MIS11に長期的なCDBW形成の有意な弱化が確認された.端成分混合解析では,粒度の端成分(EMs)は3つに区分され,それぞれ底層流の強さを反映していた(EM110~15 cm/s)は,MIS5からMIS9の各間氷期において高い含有を示したが,MIS11ではEM3は減少し,流速の減衰を示した(<5~10 cm/s).海底の酸化還元指標であるMn/Fe比も,MIS11に亜酸化的な環境へのシフトを示し,CDBW形成の弱化を支持していた.またMIS11では,海氷関連珪藻の相対産出頻度の減少とIRD供給の減少が確認されたため,当時,海氷影響が減少し,かつ氷山の融解が南極沿岸域に制限されるような温暖な環境であったことが示唆された.一方で,モデル実験からは,気温上昇(+2℃),水温上昇(+0.7℃),低塩化(-0.1)の環境条件を組み合わせた際に,秋季の海氷生産開始の遅れと低塩化に伴う,古気候記録と類似したCDBW流速の弱化が確認された.以上より,古環境記録とモデル実験は整合的な結果が得られ,MIS11におけるCDBW形成の弱化は,底層水形成域における海洋表層水温の上昇に伴う,海氷影響の減少と低塩化に関連していることが示唆された.
