日本地球惑星科学連合2024年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS11] 山の科学

2024年5月27日(月) 13:45 〜 15:00 201B (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:苅谷 愛彦(専修大学文学部環境地理学科)、佐々木 明彦(国士舘大学文学部史学地理学科 地理・環境コース)、奈良間 千之(新潟大学理学部フィールド科学人材育成プログラム)、西村 基志(信州大学 先鋭領域融合研究群 山岳科学研究拠点)、座長:西村 基志(国立極地研究所 北極観測センター)、苅谷 愛彦(専修大学文学部環境地理学科)

14:45 〜 15:00

[MIS11-05] 樹木の幹にかかる力学的ストレスの計測-雪と風について

★招待講演

*宮下 彩奈1、勝島 隆史1、南光 一樹1、鈴木 覚1 (1.国立研究開発法人 森林研究・整備機構 森林総合研究所)

キーワード:ひずみゲージ、森林気象害、雪圧、風荷重

樹木は常に風や雪、自重による力学的ストレスの中で生きている。これらの物理的負荷の大きさと木の力学的特性とのバランスを知ることは、自然環境における樹木の成長や種分布の理解を進めるのみならず、森林防災の観点からも重要である。しかし、野外で直接、外力の大きさと樹木に作用する力学的ストレスの大きさを計測できる手段は決して多くない。既往研究では、主に森林の風害(風による幹折れや根返り)に関連する分野で、ひずみゲージ(たとえばEnnos 1995, Blackburn 1997)、変位計(たとえばMilne 1991)、加速度計(たとえばWhite et al. 1976)、傾度計(たとえばFresch & Wilson 1999)などが用いられてきた。これらの中で、ひずみゲージはセンサーそのものが小型で安価であり、同時に多数の計測を行うことも可能であることから、野外での計測により適しているといえる。ひずみゲージを利用すれば、樹木の圧縮や引張による変形を直接、高精度・高頻度で計測することができ、得られた測定値は樹木の力学的なストレスの直接的な指標として用いることができる。ひずみゲージを利用した樹木を対象とした研究の例として、人工荷重によって板根に発生する応力の大きさを検討した例(Ennos 1995)、風による動的なモーメントを測定した例 (Moore et al. 2005, Minamino & Tateno 2014)、測定したモーメントで風害リスクの定量化を試みた例(Suzuki et al. 2016, Duperat et al. 2020)などが挙げられる。
これらの研究に続いて、我々はひずみゲージを利用して樹木幹に作用する風荷重の総量・重心位置・方向を計測する手法を開発し(Miyashita & Suzuki 2020)、風害リスクの定量化や風害発生メカニズムの解明に取り組んでいる。風害は日本における森林気象害の最大要因であり、特に人工林では、健全な林分の育成に欠かせない間伐によって風害リスクが上昇することが知られている(Cremer et al. 1982, Mitchell 2013)。しかし、実測例は乏しく、どのような間伐を行えばどれだけリスクが上昇するのかは明らかでない。また、森林内の風速分布を実測することは難しく、林内木の風害リスクをより正確に評価するために、風荷重とその重心位置、方向を分けて計測できる本手法の貢献が期待できる。
また、上記のようにひずみゲージは主に風による樹木への力学的ストレスを評価するために利用されてきたが、雪に関する計測例はなかった。我々は、積雪環境に応じたブナの樹形の変化や分布可能範囲の理解を目的に、多雪地山地で積雪期間中のブナ幹の変形を計測し、生木の状態での強度試験と合わせて、ブナの幹が積雪期間中に受ける力学的ストレス(曲げ応力)の大きさを推定した。計測は、斜面傾斜や積雪深が異なる場所でそれぞれサイズの異なるブナに対して行い、それらの結果から、ブナの樹形と積雪環境とのかかわりを明らかにした。
本発表ではこれらの研究を中心に、樹木が風や雪からどのようなストレスを受けているか、またその計測によってどのようなことが明らかにできるのかを紹介したい。