日本地球惑星科学連合2024年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS12] 古気候・古海洋変動

2024年5月30日(木) 15:30 〜 16:45 国際会議室 (IC) (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:山崎 敦子(名古屋大学大学院環境学研究科)、岡崎 裕典(九州大学大学院理学研究院地球惑星科学部門)、長谷川 精(高知大学理工学部)、小長谷 貴志(東京大学大気海洋研究所)、座長:長谷川 精(高知大学理工学部)

16:00 〜 16:15

[MIS12-28] 中新世のケイ素循環におけるorbitalスケール変動

*吉岡 純平1黒田 潤一郎1板井 啓明2 (1.東京大学大気海洋研究所海洋底科学部門、2.東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻)

キーワード:中新世、ケイ素循環、Ge/Si比、δ30Si、orbitalスケール変動

地球表層のケイ素循環は,ケイ酸塩鉱物の化学風化や海洋での生物ポンプなどを通じて炭素循環と密接に関連しており,地質学的タイムスケールでの気候システムを理解するために重要な要素の1つである.過去のケイ素循環は,堆積物中に保存された生物源シリカ(bSi)のゲルマニウム/ケイ素(Ge/Si)比やケイ素安定同位体比(δ30Si)を分析することで復元される.特に第四紀を中心にGe/Si比やδ30Siの復元が行われ,氷期-間氷期スケールで変動していることが確認されている(e.g., Mortlock et al., 1991; Sutton et al., 2018).一方で,中新世などのより古い時代については,時間解像度の問題により,当時のケイ素循環にorbitalスケールでの変動が存在するかは分かっていない.このことは,長期的なケイ素循環の変化を明らかにする上での障壁となっている.
本研究では,新潟県佐渡島に分布する中新統珪藻質堆積物に対して,bSiと砕屑物の量比変動に基づいたサイクル層序対比を行い,高解像度年代モデルを構築した.また,約15 kyr間隔で採取した堆積物試料から珪藻殻を分離し,そのGe/Si比とδ30Siを分析した.Ge濃度,Si濃度,δ30Siはそれぞれ同位体希釈水素化物発生誘導結合プラズマ質量分析法(ID-HG-ICP-MS),ICP発光分光分析法(ICP-AES),マルチコレクターICP-MS(MC-ICP-MS)によって測定した.その結果,Ge/Si比とδ30Siの双方でorbitalスケールでの変動が確認された.寒冷期にGe/Si比とδ30Siは低くなる傾向にあり,これは第四紀に見られる変動と類似していることから,中新世においてもケイ素循環は第四紀と同じような変動メカニズムをもつことが推察される.
さらに,本研究ではケイ素循環の変動要因をボックスモデルを用いて評価した.ボックスモデルでは,表層での溶存シリカ(dSi)利用度,bSiの堆積物への保存効率,河川流入量,熱水流入量,日本海の海閾深度の5つをそれぞれ変化させた場合にbSiのGe/Si比とδ30Siがどのように変化するかを調べた.その結果,寒冷期の低いGe/Si比と低いδ30Siは,表層でのdSi利用度の低下,河川性Si流入量の低下,bSiの堆積物への保存効率の低下という3つの要素の組み合わせによって説明可能であることが示された.
本研究は中新世のケイ素循環に関する新規的な情報を提供しているが,より長期的な変動の復元やその背後にあるメカニズムの理解には,さらなる時空間的データの蓄積が必要である.