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[MIS12-30] 古海洋プロキシの高度化に資するマイクロX線CTのポテンシャル
キーワード:マイクロフォーカスX線CT、有孔虫、パレオプロキシ
堆積物を用いた古海洋・古環境解析において、その多くが微化石、とりわけ石灰質有孔虫の殻化石によるプロキシを基盤とした研究に基づいている。有孔虫殻に含まれる海洋情報は、それが形成された当時の海洋環境のみならず、堆積後の選択的溶解や続成等、周辺環境による影響を受け、容易に改変されうる。そしてそれは復元される古海洋環境の確度にも強く影響する。また一方で、分子生物学的研究の進展により、1種と認定されるもの中に複数の遺伝型(隠蔽種(cryptic species))が存在することが複数の種において明らかになっており(Darling, et al., 2000など)、これは一般的に光学顕微鏡下で区別することが極めて困難である。このように、有孔虫殻の詳細な形態情報と遺伝的多様性の対応、そして殻に記録されている化学情報の整合的結合の必要性がクローズアップされているものの、多くの場合、未解明のままである。
マイクロフォーカスX線CT(µCT)による有孔虫殻形態の解析は、これらの理解を助けるツールとして、大きく貢献する可能性を有している。µCTはX線管より照射されるX線を対象物に全方位より照射し、その透過像をコンピュータで再構成することで3次元像を得る装置であり、サブミクロンオーダーの精密な形態情報が取得できる。また非破壊分析であるため、形態計測前後の各種分析が可能である点で有利である。例えば現生種の場合、個体の遺伝子情報をあらかじめ抽出したうえで、µCTにより殻形態を精密取得し、さらに安定同位体比や微量金属元素などの化学分析に供することで、分子生物学と形態、地球化学情報との相互関係解明を果たすことができる(Ujiie et al., 2019)。これはとくに第四紀化石試料とそのプロキシ解釈に極めて有用な情報を提供する。さらに近年注目されているのは、X線透過像を用いた石灰質殻の密度および溶解量の定量である。有孔虫殻のように均質な物質で構成される場合、得られるX線透過像の輝度値分布(≒X線吸収量)はその密度に依存する。方解石を基準物質とする規格化された、有孔虫殻の輝度値(方解石CT値;佐々木ほか、2016)の分布パターンから、過去の海水中の炭酸イオン濃度を時空間的に復元する試みが提案されている(Iwasaki et al., 2022)。これは従来のバルク重量法や破片の比率を用いた推定よりもはるかに定量性に優れていると同時に、有孔虫の化石殻の密度が深層水の炭酸イオン濃度の指標となりうることを示しており、様々な海域での利用が可能なプロキシとして今後の発展が期待できる。さらに既知の外部標準試料を用いて、方解石CT値から直接、密度や個体別重量を求める方法論も確立され、海洋環境変化による生物影響の評価を具体的な数値で正しく求めることも可能となった(Kimoto et al., 2023)。以上のように、µCTによる石灰質有孔虫の新たな形態パラメータの創出は、古海洋環境復元の確度や信頼性を高めることに寄与すると同時に、現代海洋の物質循環研究にも資するポテンシャルを有しているといえる。
マイクロフォーカスX線CT(µCT)による有孔虫殻形態の解析は、これらの理解を助けるツールとして、大きく貢献する可能性を有している。µCTはX線管より照射されるX線を対象物に全方位より照射し、その透過像をコンピュータで再構成することで3次元像を得る装置であり、サブミクロンオーダーの精密な形態情報が取得できる。また非破壊分析であるため、形態計測前後の各種分析が可能である点で有利である。例えば現生種の場合、個体の遺伝子情報をあらかじめ抽出したうえで、µCTにより殻形態を精密取得し、さらに安定同位体比や微量金属元素などの化学分析に供することで、分子生物学と形態、地球化学情報との相互関係解明を果たすことができる(Ujiie et al., 2019)。これはとくに第四紀化石試料とそのプロキシ解釈に極めて有用な情報を提供する。さらに近年注目されているのは、X線透過像を用いた石灰質殻の密度および溶解量の定量である。有孔虫殻のように均質な物質で構成される場合、得られるX線透過像の輝度値分布(≒X線吸収量)はその密度に依存する。方解石を基準物質とする規格化された、有孔虫殻の輝度値(方解石CT値;佐々木ほか、2016)の分布パターンから、過去の海水中の炭酸イオン濃度を時空間的に復元する試みが提案されている(Iwasaki et al., 2022)。これは従来のバルク重量法や破片の比率を用いた推定よりもはるかに定量性に優れていると同時に、有孔虫の化石殻の密度が深層水の炭酸イオン濃度の指標となりうることを示しており、様々な海域での利用が可能なプロキシとして今後の発展が期待できる。さらに既知の外部標準試料を用いて、方解石CT値から直接、密度や個体別重量を求める方法論も確立され、海洋環境変化による生物影響の評価を具体的な数値で正しく求めることも可能となった(Kimoto et al., 2023)。以上のように、µCTによる石灰質有孔虫の新たな形態パラメータの創出は、古海洋環境復元の確度や信頼性を高めることに寄与すると同時に、現代海洋の物質循環研究にも資するポテンシャルを有しているといえる。