日本地球惑星科学連合2024年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS12] 古気候・古海洋変動

2024年5月29日(水) 17:15 〜 18:45 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 6ホール)

コンビーナ:山崎 敦子(名古屋大学大学院環境学研究科)、岡崎 裕典(九州大学大学院理学研究院地球惑星科学部門)、長谷川 精(高知大学理工学部)、小長谷 貴志(東京大学大気海洋研究所)

17:15 〜 18:45

[MIS12-P16] 個別個体の浮遊性有孔虫殻Mg/Ca水温分析による過去14000年間の黒潮大蛇行発生頻度の解析

*藤見 唯衣1堀川 恵司6池原 実2岡崎 裕典3久保田 好美4小林 英貴5 (1.富山大学理工学研究科、2.高知大学海洋コア国際研究所、3.九州大学大学院理学研究院地球惑星科学部門、4.国立科学博物館 、5.富山大学理学部 、6.富山大学学術研究部理学系 )

キーワード:黒潮大蛇行、浮遊性有孔虫個別個体分析

黒潮大蛇行とは黒潮の3つの安定流路のうち,黒潮流路が紀伊半島沖で沿岸から大きく離れ蛇行した現象を指す。現在,観測データのある1965年以降,最長となる黒潮大蛇行(約6年6ヶ月間)が発生している。黒潮大蛇行は黒潮流路周辺のカツオの漁場の変化やカタクチイワシの漁獲量減少(NRIFS 2005),関東地域の高温・高湿度化(Sugimoto et al., 2021)を引き起こすことから,日本周辺の水産資源や気候状態を考える上で非常に重要な海洋変動と位置付けられる。しかし,過去60年以前の海洋観測データのない期間で,黒潮大蛇行の発生頻度や継続期間がどのような状態にあったかについては,ほぼ理解されていない。
 海底堆積物試料を対象とした過去の黒潮大蛇行の解析(Sawada and Handa, 1998)では、黒潮大蛇行時に水温が上昇する海域と低下する海域の水温差から,数千年スケールでの黒潮流路の変化が解析されている。この研究では,2地点の水温差が大きかった時期に,黒潮流路が大蛇行状態にあったと結論付けているが,ORAS5の再解析データによる過去65年の2地点の水温差では,黒潮大蛇行時の2地点の水温差は非大蛇行時と明確な差はなく,10年平均の水温差においては,さらに水温差は不明瞭になっている(1℃未満)。さらに,海底堆積物の年代決定の誤差を考えると,2地点の海底堆積物から厳密な意味での同時間の水温差を抽出することは非常に難しい。また,1000年10cm未満の堆積速度を考えると,数100年平均の2地点の水温比較になるため,現在観測されるような数年―10年単位の黒潮流路の変動と同じ現象を見ていない可能性もある。
 そこで本研究では,黒潮大蛇行発生頻度の解析に,単一コア中の浮遊性有孔虫殻1個体ずつの分析を行う個別個体分析(以降IFA)を用いた。またこの手法に最適な海域と考えられる,黒潮大蛇行時に高水温,非大蛇行時に低水温となる東海沖に着目し,東海沖で採取された堆積物コア(KH-16-6 St2 PC)を対象とした。このコア試料から,過去6000年~14000年の期間に堆積した5層準(試料1cm厚,堆積速度8cm/kyr)で,夏季の表層で殻形成をするGlobigerinoides ruber albus を70–100個体拾い,IFAによるMg/Ca比水温復元を行った。有孔虫殻の洗浄は ,先行研究(Klinkhammer et al., 2004) が行っているフィルターを用いたフロースルー洗浄法を改良し行った。現時点でテスト分析を行った完新世区間に堆積したG. ruber albusのIFA-Mg/Ca比は,平均して3.8mmol/molであり,水温に換算すると23.3℃であった。この結果は,東海沖の現世水温(24.5℃)と同程度であり,また多個体分析(20–30個体分析)で得られている過去1万年間の平均水温(23.8℃)ともおおむね一致した。発表では,過去6000年~14000年の5層準についてIFA分析を行い,水温頻度分布の解析結果から黒潮大蛇行の発生頻度について議論する。