[M-IS12] 古気候・古海洋変動

[MIS12-P19] トカラ海峡の堆積物コアから復元した過去２万年間のアルケノン古水温変動

*河野 敬太¹、池原 実² (1.高知大学大学院総合人間科学研究科理工学専攻地球環境防災コース、2.高知大学 海洋コア国際研究所 )

キーワード：黒潮、アルケノン古水温、TOC、完新世

北太平洋の表層循環系は大きく分けると亜寒帯循環系，亜熱帯循環系，熱帯循環系の3つの循環系がある．黒潮は亜熱帯循環系に属し，低緯度域から中緯度域に大量の熱と塩分，水塊を輸送する重要な役割を担う西岸境界流である．黒潮は台湾東方から東シナ海に進入して北東に流れ，トカラ海峡を通り日本列島南方を流れる．しかし，海水準が低下していた氷期には東シナ海に進入しておらず，現在と異なる流路をとっていた可能性が指摘されている．一方で，地球科学およびモデリングを用いた研究では，黒潮は氷期に弱化しつつも東シナ海を流れていたと推測されている．これらの議論は現在も継続しており，また，先行研究では東シナ海の記録がほとんどであり，トカラ海峡は注目されていない．トカラ海峡は低海水準時にも黒潮が絶えず流れていたと考えられる地点である．そのため，本研究では黒潮流域下であるトカラ海峡の堆積物を用いて，元素分析，アルケノン分析に基づいて，一次生産量や表層水温を復元し，沖縄トラフや四国沖の既存の古環境データと比較することで，トカラ海峡における過去２万年間の古環境変動とその要因について明らかにすることを目的とした．
本研究では，白鳳丸 KH-02-1次航海にてトカラ海峡東方より採取されたTSK – 1PC（29°38.01’N, 131°04.32’E）を用いた．コアの全長は14.1mであり，コア上部から約1.6mと7.6mにテフラ層が確認された．コアの岩相はテフラ層の上層に生物攪拌が見られるもののほぼ均質なシルト質粘土であった．年代モデルは12層準での浮遊性有孔虫のAMS ¹⁴C年代と火山灰層2層準を基に暦年代に換算し，コア全体で約4万年を記録していることが示された．堆積速度は平均28cm/kyrであり，基本的に氷期に大きい．さらに，1.3万年前や１万前の短い期間に40-50cm/kyrと堆積速度が高くなることが分かった．元素分析によって，堆積物中の全炭素（TC）と全窒素（TN），全有機炭素（TOC）を定量し，TCとTOCの差分から無機炭素量を求め，CaCO₃濃度を算出した．TOCは0.48~1.22 ％，CaCO₃は3.9~17.6 %の間で変動していた．TOCは退氷期からベーリング/アレレード（B/A）温暖期で高く，完新世で低下していた．TOCフラックスは堆積速度変化に依存しているものの，海水準変動の影響を受けている可能性が示唆された．アルケノン古水温は21.1~27.8℃の間で変動し，退氷期初期に21.1~22.7℃を示し，B/A温暖期で一旦上昇した後，ヤンガードリアス寒冷期に約1℃低下した．過去1万年間のアルケノン古水温の平均値は約25℃であるが，最近の2千年間では上昇傾向を示した．これらの古水温は，東アジア夏季モンスーンが強くなっていた時代に上昇傾向を示すことがわかった．