日本地球惑星科学連合2024年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS16] 惑星火山学

2024年5月29日(水) 17:15 〜 18:45 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 6ホール)

コンビーナ:野口 里奈(新潟大学 自然科学系)、諸田 智克(東京大学理学系研究科地球惑星科学専攻)、下司 信夫(産業技術総合研究所 活断層・火山研究部門)

17:15 〜 18:45

[MIS16-P03] アフリカ大地溝帯の火山地域を手掛かりとしたルートレスコーンの形成条件の制約

*阿部 耕太1野口 里奈2 (1.新潟大学 理学部、2.新潟大学 自然科学系)

キーワード:火星 、水、ルートレスコーン、ケニア

ルートレス噴火は、溶岩が含水層を覆い、熱せられた水が気化・膨張することで連続して発生する爆発現象である。この現象によって円錐形の火山地形(ルートレスコーン)が形成される。ルートレスコーンはElysium Planitiaなど火星の多くの地域に存在していると考えられている(例えば、Greeley et al., 2001; Fagents et al., 2001; Fagents and Thordarson, 2007; Jaeger et al., 2007)。形成過程で地下浅部の水/氷が必要になることから、ルートレスコーンは火星の過去の表層環境を推定するのみならず、浅部地下環境まで含めた火星史研究や生命を軸とした探査の検討を行う上での重要な手がかりとして注目を集めている。

ルートレスコーンは水と溶岩が接触すれば必ず形成されるわけではない。地球上には火山と水環境が豊富に存在するため、ルートレスコーンの形成機会が多いと一見考えられるが、実際にはハワイやアイスランドなど極めて限られた地域でしか見られない(野口・栗田, 2016)。このことは、ルートレスコーンの形成条件が複雑であり、溶岩と水の比率や、含水層の形態、溶岩の組成、地形的要素など多くの要素が関わっていることを示唆している。これらの要素・条件が制約できれば、ルートレスコーン形成当時の環境推定や火星-地球のルートレスコーン分布差の検討が可能となる。

ルートレスコーンの形成要素・条件を制約するには、類似した環境下で形成の可不可が分かれた溶岩流同士のパラメータを比較する必要がある。そこで本研究では、溶岩と水の接触機会が豊富に存在し、一部でルートレスコーンがみられる、アフリカ大地溝帯内ケニア北西部に位置する4つの火山:Silali火山、Emruangogolak火山、Namarunu火山、Barrier火山を対象とし、火山周辺の地形や溶岩流の年代・組成からなるデータセットを作成し多変量解析を行った。

本研究で対象とする火山周辺は現在極めて乾燥した環境であるが、かつては水が豊富な環境であったことが知られている(Dunkley et al., 1993)。Emuruangogolak火山南側およびSilali火山北側では、溶岩流上にルートレスコーンが見られ、形成当時は浅い湿地や湿った堆積物が分布していたと考えられている(Dunkley et al., 1993)。

本研究では、文献調査とGIS解析によって、水との接触が示唆される溶岩流(Dunkley et al., 1993をもとに選定)の化学組成(主要元素)・年代・地形データセットを作成した。化学組成・年代データはDunkley et al., 1993、Black et al., 1998、Rogers et al., 2000から収集した。各溶岩流の平均傾斜角と地形湿潤指数(Topographic Wetness Index, TWI)については、標高データ(ALOS World 3D-30, JAXA)を用いて算出した。TWIはKopecký et al., 2021を参考に、流路の計算アルゴリズムや流路幅、流路拡散、傾斜勾配の算出方法を決定した。

 作成したデータセットに対して、主成分分析と階層クラスター分析を行った。 主成分分析では、主要9元素(SiO2,TiO2, Al2O3, Fe2O3, MgO, CaO, Na2O, K2O, P2O5)、地形パラメータ(slope_mean、slope_stdev、TWI_mean、TWI_stdev)毎に分析を行い、因子負荷量の大きなパラメータを抽出し、クラスター分析に使用するパラメータ組み合わせを作成した。主要元素については、Ohta & Arai, 2006を参考に、MnOを規格化成分として対数比変換した値を用いた。作成したパラメータ組み合わせでクラスター分析(ユークリッド距離、ウォード法を使用)し、どの組み合わせの時にルートレスコーン有の溶岩流が同クラスターになるかを調査した。その結果、ルートレスコーン有の溶岩流が同クラスターに分類されるには、地形パラメータを必ず用いる必要があることが判明した。また、主要元素や年代パラメータを用いた場合、ルートレスコーン有の溶岩流と無い溶岩流でユークリッド距離が短くなったり分類できなくなったりすることがわかった。

 本研究により、ルートレスコーン分布の有無には、傾斜とTWIの寄与が大きいことが明らかとなった。つまり、本研究で対象とした地域では、集水面積が広く一様に平坦な領域にルートレスコーンが分布していることが示され、この地理・地形的環境がルートレス噴火の発生に適した条件であると考えられる。