日本地球惑星科学連合2024年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS18] 結晶成⻑、溶解における界⾯・ナノ現象

2024年5月31日(金) 13:45 〜 15:00 101 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:木村 勇気(北海道大学低温科学研究所)、三浦 均(名古屋市立大学大学院理学研究科)、佐藤 久夫(日本原燃株式会社埋設事業部)、塚本 勝男(東北大学)、座長:佐藤 久夫(日本原燃株式会社埋設事業部)、木村 勇気(北海道大学低温科学研究所)

13:45 〜 14:15

[MIS18-01] ケイ酸塩ガラスの水に対する浸出挙動の熱力学解析

★招待講演

*菅原 透1、大平 俊明1、神 航介1 (1.秋田大学)

原子力発電の使用済み核燃料の再処理で生じる高レベル放射性廃棄物はガラス固化後に地層処分される.このとき固化に用いられるガラスには水に対する高い化学的耐久性が求められる.
ガラスの成分の浸出は化学ポテンシャルの勾配により生ずるものであり,ガラスと水の仮想的な反応

Glass + xH2O + yH+ = aHSiO3- + bB(OH)3 + cAlO2- + dCa2+ + eNa+ (1)

の化学平衡に近づくように進むものと考えらえる.
温度Tにおける式(1)の平衡定数Kはガラスの溶解ギブズエネルギー(ΔdissG)と
lnK=-ΔdissG/RT (2)
の関係で表すことができる.ここでΔdissGは298Kのガラスの生成ギブズエネルギー(G(glass, 298)),酸化物成分iのギブスエネルギーの総和(Σx(i)G(ox, i, 298)),酸化物成分iの溶解のギブズネエルギーの総和(Σx(i)ΔdissG(ox, i, 298))の合計であり,
ΔdissG = - G(glass, 298)+Σx(i)G(ox, i, 298)+Σx(i)ΔdissG(ox, i, 298) (3)
により求められる.
 Linard et al. (2001)はG(glass, 298)を溶解熱測定により決定し,式(2)と(3)からガラスの平衡定数を決定した.
 本研究では,近年構築が進んできたケイ酸塩メルトに対するCALPHAD法の熱力学データベースとガラスの熱容量データを用いてG(glass, 298)を計算し,式 (2)と(3)からガラスの平衡定数(lnK(calc))を決定した.また,ガラスの浸出率測定実験を行うことで平衡定数を実験的に決定し(lnK(exp)),lnK(calc)と比較をした.
本研究では,一般に耐久性が高いと考えられているSiO2-B2O3-Al2O3-CaO-Na2Oの5成分系について,耐水性を向上させる成分であるSiO2とAl2O3の量, 低下させる成分であるNa2O量を変化させた9種類のガラスを合成した.それぞれのガラス粉末(40-100μm)の試料0.235gを90℃の超純水(pH=9)1L中に48時間浸出させ,所定の時間に溶液を4mlずつ採取した.各溶液のSi, B, Al, Ca, Na濃度をICP-AESにより定量した.測定された濃度Cと拡張型デバイ・ヒュッケルの式から求められる活量係数を用いて活量を求めるとともに,平衡定数(lnK(exp))を算出した.
 平衡定数(lnK(exp))はガラスの網目形成酸化物(NF)/網目修飾酸化物比(NM)比が高いほど,またNF/NM比が一定であるときにはAl2O3ガラスを含むときに低くなり,耐水性が向上した.
RTlnK(exp)は-65から+15 kJ/molの範囲で変化し,RTlnK(calc)と±20kJ/mol程度の誤差で定量的に一致した.このことはCALPHAD法の熱力学データがガラスの耐水性の定量的な予測に応用することができる可能性があることを示している.耐水性の高いガラスではlnK(calc)よりもlnK(exp)が低くなる傾向があった.これはケイ酸塩ガラスの表面にゲル層が形成されることで,反応が妨げられているためであると推察される.