[M-IS20] 津波堆積物

[MIS20-P02] 津波堆積物直下から得られる年代は何を示すか？
―厚真町でのトレンチ調査に基づく検証―

*石澤 尭史¹、西村 裕一²、高清水 康博³、菅原 大助¹、宮入 陽介⁴、横山 祐典⁴ (1.東北大学　災害科学国際研究所、2.北海道大学　地震火山研究観測センター、3.新潟大学　、4.東京大学　大気海洋研究所)

キーワード：千島海溝、17世紀津波堆積物、放射性炭素年代測定

津波堆積物の年代測定をすることで，古津波履歴を復元できる．例えば，異なる地点で発見された津波堆積物は年代を基に対比され，その対比結果から同一の津波で形成された堆積物の分布範囲が推定される．津波堆積物の年代測定をする際，津波堆積物自体は再堆積物であるため，そこから得られる年代は津波発生と同時かそれよりも古くなる．そのため一般的には津波堆積物の直上・直下から年代測定を行い，間に挟まれる津波堆積物の年代を間接的に推定する．ここで津波堆積物直下から得られる年代に着目すると，津波来襲時の地表面は津波の遡上に伴い侵食されることもあるため，現在見かけ上津波堆積物直下にある堆積物が津波来襲直前の地層である保証はない．そのため，同一の津波による堆積物であっても津波堆積物直下から得られる年代は地点ごとに差が生じることが多く，津波堆積物の年代対比を困難にしている．この問題は広く知られる一方，同一の津波堆積物で直下から得られる年代にどれだけの差が生じるか，またその要因等についての定量的な検討がなされていない．
そこで本研究では，北海道厚真町で掘削されたトレンチ壁面において，津波堆積物直下の年代を複数地点で測定し，その年代差について考察を行った．このトレンチ壁面では約3500年前までの地層が確認でき，ハンディジオスライサーでの追加掘削結果も踏まえると本地域では約6000年間の地層記録を確認した．トレンチ壁面では17世紀の津波堆積物とB-Tm火山灰（946 CE）が連続的に観察できるが，17世紀の津波堆積物とB-Tm間の泥炭は地点ごとに層厚が大きく異なり，津波による侵食・堆積の影響を強く受けていることが示唆される．この津波による侵食・堆積が津波堆積物直下から得られる年代に与える影響を確認するため，17世紀の津波堆積物直下について20地点で放射性炭素年代測定を行った．その結果，17世紀の津波堆積物直下から得られる年代は数千年の幅を持っていた．例えば，17世紀よりも有意に古い年代を示すブロック状の堆積物が，17世紀津波堆積物直下に再堆積していた．また，津波堆積物とその直下泥炭の間には17世紀よりも数百年古い泥質層が確認でき，こちらについても津波による再堆積層であると考えられる．本発表ではこれらの特徴をまとめ，津波堆積物直下で年代測定をする際の注意点を論じる．