日本地球惑星科学連合2024年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS20] 津波堆積物

2024年5月31日(金) 17:15 〜 18:45 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 6ホール)

コンビーナ:山田 昌樹(信州大学理学部理学科地球学コース)、石澤 尭史(東北大学 災害科学国際研究所)、谷川 晃一朗(国立研究開発法人産業技術総合研究所 活断層・火山研究部門)、中西 諒(京都大学)

17:15 〜 18:45

[MIS20-P06] 深層学習に基づく逆解析手法を用いた水理条件推定:別府湾における古津波堆積物への適用

*清塚 義明1山田 昌樹1成瀬 元2 (1.信州大学理学部理学科地球学コース、2.京都大学大学院理学研究科)

キーワード:津波堆積物、海底活断層、別府湾、逆解析手法

別府湾では,海底活断層や陸上津波堆積物の調査によって断層運動と津波堆積物の年代が明らかにされており,最近約7300年間に計5回の津波を伴う地震が発生したと考えられている(Yamada et al., 2021).一方で,1596年に発生した慶長豊後地震以前の津波に関する歴史記録は残っておらず,その規模については十分に検討できていない.近年の研究では,歴史記録が残っていない古津波を定量的に復元するために津波堆積物の逆解析手法が提案されている.津波堆積物の逆解析手法とは,堆積物の層厚や粒度分布などの情報をもとに津波の水理条件(浸水距離,遡上流速,浸水深など)を復元する手法である.浸水距離や流速,浸水深は歴史記録としては残りにくく,古津波の水理条件の推定は一般に困難である.そのため,堆積物が持つ情報から水理条件を復元することが可能な逆解析手法は,古津波の規模を推定する上で有効な手法と考えられている.本研究では,別府湾北岸に位置する速水郡日出町大神の沿岸湿地において確認されている約6500年前の古津波堆積物に対して逆解析手法FITTNUSS-DNN(Mitra et al., 2020)を適用することで,別府湾において発生した古津波の水理条件の定量的な復元を行うことを目的とする.FITTNUSS-DNNは中~小規模の古津波の水理条件の復元に成功しており,比較的小規模な津波かつ時間の経過とともに劣化した古津波堆積物に対して有効であることが証明された(Batubo et al., 2024).

本研究の調査では,FITTNUSS-DNNに使用する津波堆積物の層厚粒度分布データを得るため,大神湿地において津波堆積物のコア掘削を行った.大神湿地は海岸線から約30 m地点から始まり,幅約85 m,奥行き約150 m,標高約4 mの比較的小さな湿地である.調査では先行研究(山田ほか,2022)で設定された海岸線に直交する測線に沿った計43地点においてハンドコアラーを用いた掘削を実施した.海側の35地点では約1 m間隔,陸側の8地点では約5 m間隔でコアの掘削を行い,砂層の詳細な層厚粒度分布データを取得した.掘削された堆積物コアには,すべてのコアにおいて側方に連続する砂層が認められた.この砂層は,上下の有機質泥層と明瞭な地層境界で区切られており,突発的なイベントによって形成された砂層であることが示唆される.砂層の層厚は,海側から内陸側にかけて6.3 cmから0.1 cmへと変化しており,内陸方向に向かって薄層化する傾向が見られた.また,粒度分析から内陸方向に向かって細粒化する傾向も確認された.

本研究では,まず今回調査を行った津波堆積物の堆積環境に適したFITTNUSS-DNN逆解析モデルを構築した.人工データで構築した逆解析モデルを検証した結果,先行研究(例えば,Mitra et al., 2020;Batubo et al, 2024)のモデル性能と近い性能を持つモデルが構築されたことが確認された.すなわち,本研究で使用するモデルは調査地域の津波の水理条件を推定する能力を十分に有している.このモデルを調査結果に適用したところ,復元された水理条件は,最大浸水距離74.41 m,流速5.440 m/s,最大浸水深1.261 mであった.復元された水理条件を用いて順解析モデルから層厚粒度分布を計算した結果,本モデルの推定結果は実測値の分布とよく類似していることが確認された.また,ジャックナイフ法を用いて不確実性について検討したところ,誤差範囲は最大浸水距離±8.596×10−15 m,流速±0.097 m/s,浸水深±0.046 mであり,復元結果の不確実性は十分に小さいことが確認された.復元された大神湿地における津波水理条件は,これまでに観測されてきた津波の特徴と整合的であり,本研究で用いた逆解析モデルは津波の水理条件として妥当な値を復元している可能性が高いと考察される.今後は逆解析モデルを改善し,古地形の復元結果や複数地点における堆積物データへのモデルの適用などによって津波規模の推定精度・確度の向上を目指す.さらに,震源断層の挙動を考慮したより大規模な津波シミュレーションモデルと組み合わせることで,別府湾において発生した先史津波の規模の解明と断層破壊域の特定ができるものと期待される.