[M-IS20] 津波堆積物

[MIS20-P10] 海岸平野における津波侵食地形の調査とその形成に係る水理量の評価

*吉池 奏乃¹、菅原 大助²、石澤 尭史²、増田 英敏¹、南舘 健太¹、べラスコレイエス エリック¹ (1.東北大学大学院理学研究科地学専攻、2.東北大学　災害科学国際研究所)

津波堆積物は，特に地表から浅い層準に存在する場合，自然あるいは人為的な擾乱・削剥の影響で保存状態が悪いことが指摘されており，層厚が局所的に変化するだけでなく分布が不連続になることもある．記録が不完全であることは，波源域と地震・津波の規模，再来間隔の評価に大きな影響を与える．
本研究では，津波堆積物を補完する古津波の痕跡である侵食地形から新たな情報を得ることを目的に，地中レーダー（Ground-penetrating radar; GPR）を用いた調査と数値解析による水理量の評価を行う．ここで着目する侵食地形は，津波の遡上流や戻り流れによって地形的な高まりの背後や破堤箇所が洗堀された後，窪み部分が常時堆積物で埋積されたものである．古津波研究において侵食地形はこれまで注目されることは少なかったものの，侵食地形基底の年代や侵食地形を形成しうる水理条件を推定することで，古津波の年代や規模に関する新たな知見を得られる可能性がある．
研究対象地域は，宮城県仙台市若林区荒浜の南長沼付近でかつて池があったと考えられる水田と，2011年東北沖津波の際に津波による侵食と堆砂が報告され，それ以前の津波でも同様の地形変化が起こった可能性のある仙台市宮城野区岡田の汀沈釜湿地である．なお，仙台平野では，これまでに869年貞観地震津波，1454年享徳地震津波，1611年慶長奥州地震津波に加え，4－5世紀頃，１世紀頃，紀元前3－4世紀頃の津波による堆積物の存在が報告されている．
既往研究の2011年前後のDEMの比較によれば，汀沈釜湿地では津波により地盤高が60 cm以上も低下した（富田ほか，2013）．海岸線に対して直交する測線を設定してGPR調査を行ったところ，海浜堆積物に整合的な海側にダウンラップする反射面が認められた．測線上で採取した試料中の堆積物では，浜堤砂の直上が部分的に土壌化し，その上にシルトが堆積していた．このシルト層は珪藻分析の結果から海に近い湿地で堆積したものであると考えられる．本発表では，浜堤から湿地に変化した要因の一つとして過去のイベントで侵食された可能性を検討する．
南長沼付近には，①古い地形図に記載された現存しない沿岸湖沼と，②古い空中写真で確認される海岸線に直交する方向の細長い池が存在したと考えられる．海岸線に対して垂直および平行な測線上のGPR画像では，①の付近に海浜堆積物と見られる反射面を切り陸側に傾く反射面と，その陸側に幅約40 m，深さ約1.0 mの下に凸の強い反射面が認められた．②を横切る測線でも幅約80 m，深さ約0.5 mの下に凸の反射面が認められた．反射面の窪み内部とその周囲における十和田aテフラとみられるテフラ層の分布の有無の違いから，窪みは十和田aテフラが降下した915年以降の形成されたことが示唆された．また，反射面に対応する砂層直上の有機質シルト層から得た¹⁴C年代は西暦1035－1169年を示したことから，侵食地形の形成時期は915年以降，1169年よりも前であると推定される．既知の歴史津波の年代と合致しないが，記録にない津波または高潮によって形成された可能性がある．そこで本研究では，数値シミュレーションにより，津波と高潮のどちらが成因として妥当か検討する．検討にあたってはDelft3DやTUNAMI-STMなど既往の高潮・高波および津波の数値モデルを用い，水理条件を変えたシミュレーションによって外力の種類・規模と侵食深の関係を明らかにし，実際の侵食地形と比較することで過去の津波の水理条件を評価する．