日本地球惑星科学連合2024年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS22] 海底のメタンを取り巻く地圏-水圏-生命圏の相互作用と進化

2024年5月26日(日) 10:45 〜 11:45 302 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:宮嶋 佑典(産業技術総合研究所 地質調査総合センター 地圏資源環境研究部門 地圏微生物研究グループ)、井尻 暁(神戸大学)、ジェンキンズ ロバート(金沢大学理工研究域地球社会基盤学系)、戸丸 仁(千葉大学理学部地球科学科)、座長:宮嶋 佑典(産業技術総合研究所 地質調査総合センター 地圏資源環境研究部門 地圏微生物研究グループ)、ジェンキンズ ロバート(金沢大学理工研究域地球社会基盤学系)

11:30 〜 11:45

[MIS22-10] メタンハイドレート開発における環境影響評価:新潟県上越海丘における化学的環境特性

*源田 亜衣1山岡 香子1太田 雄貴1、塚崎 あゆみ1宮嶋 佑典1吉岡 秀佳1鈴木 淳1鈴村 昌弘1 (1.産業技術総合研究所)

キーワード:メタンハイドレート、環境影響評価、海底表層堆積物、間隙水、溶出試験、重金属元素

日本海の海底下には表層型メタンハイドレートが存在し,資源開発を目指した調査が進められている。それと同時に開発に伴う周辺環境への影響評価も重要な調査事項となっており,環境ベースラインデータの取得が進められている。本研究では化学的な環境特性を対象とした影響評価に取り組んだものである。海底における資源開発では,掘削屑が海水中の巻き上がり等による堆積物と海水の混合で海水の化学特性が変化する可能性が考えられる。本研究では,ハイドレート賦存域から採取されたコア試料から堆積物および間隙水の化学組成の分析を行い,ハイドレート賦存域の表層堆積物の環境特性を調べるとともに,堆積物と海水を振盪させる溶出試験を実施し堆積物からの元素の溶出特性について評価を行った。
本研究の試料は2021年に実施された新潟県上越沖上越海丘の調査において採取した海底表層のプッシュコア試料(~28 cm)である。コア試料は,海丘上ハイドレート賦存域にあるバクテリアマット内(IBM)とマット外(OBM)の各1地点,および参照地点として海丘上ハイドレート賦存域外REF-1 サイトと海丘外REF-2サイトの計4地点を対象とした。表層堆積物中の環境ベースラインデータ取得のため,堆積物試料の全有機炭素・全硫黄・全窒素・メタンの濃度やその同位体比および金属元素濃度(Mg, Al, Ca, V, Cr, Mn, Fe, Ni, Cu, Zn, As, Rb, Sr, Mo, Cd, Ba, Pb, U, REEsなど),間隙水の栄養塩・硫酸イオン・硫化水素・溶存無機炭素濃度やその同位体比および金属元素濃度(Mg, Ca, V, Mn, Fe, As, Rb, Sr, Mo, Ba, Uなど)を測定した。また堆積物(掘削屑)が海水中に巻き上がった場合を想定し,堆積物と上越沖表層海水を固液比1:100で24時間振盪試験を実施し,試験開始24時間後の海水中の溶存金属元素濃度(Mg, Ca, V, Mn, Fe, Ni, Cu, As, Sr, Mo, Cd, Uなど)を分析した。
間隙水の化学組成分析の結果から,バクテリアマット内外では嫌気的メタン酸化(AOM)が生じており,硫酸塩–メタン境界はIBMでは5 cm以浅,OBMでは15 cm以深であることが示唆された。参照地点であるREF-1・2サイトでは,深度に沿って硝酸還元,マンガン還元 ,鉄還元が生じており,さらにREF-1サイトの20 cm以深では硫酸還元も生じていると考えられるが、いずれもAOMは認められなかった。間隙水中の金属濃度は,AsとBaを除いてバクテリアマット内外よりも参照地点の方が高い傾向を示した。REF-1サイトの10 cm以深では,間隙水中のFeが減少する一方でV, As, Mo, Uが増加し,20 cm以深では減少した。バクテリアマット内外における堆積物の全硫黄及びCaCO3濃度は高く,AOMに伴い硫酸鉱物と自生炭酸塩が形成されたと解釈される。硫化鉱物に濃集する元素(Cu, Mo, Cd)や炭酸塩鉱物に共沈する元素(Ca, Sr)が高いことも整合的である。一方,参照地点のREF-1サイト10 cm以深でも全硫黄が増加し,硫黄同位体比は表層の+3‰から-30‰まで減少する。しかし,バイオマット内外の硫黄同位体比は−20〜+9‰と参照地点に比べ高く,硫酸還元の速度の違いを反映していると考えられる。
溶出試験の結果から,ハイドレート賦存域であるIBMおよびOBMでは,堆積物からCd, Mo, Cuの溶出が認められた。参照地点と比較し,これらの元素は堆積物に含まれる濃度が高く,深度方向のプロファイルも一致している。今後さらに実際の現場環境での溶出プロセスや溶出に伴う海水中の濃度上昇の予測・推定手法について精査してゆくことが重要である。一方で,参照地点の堆積物試料から溶出が認められたV, As, Mn, Feはハイドレート賦存域の堆積物試料からの溶出がほとんど認められなかった。本発表では,各地点における酸化還元と元素の挙動や,溶出プロセスに関して議論する。

本研究は,経済産業省のメタンハイドレート研究開発事業の一部として実施した。